Top / Social Impact / 【トラジェクトリー】目指すは航空管制のアップデート社会インフラをつくり、世界に発信していく
「ドローンはそもそも自律飛行していないと価値がない」。そう仰るトラジェクトリー小関さん。今回はトラジェクトリーの担当キャピタリスト、DRONE FUND蓬田さんと共に、トラジェクトリー社が挑戦している航空管制のアップデートと、その未来の実現に向けて今現在取り組んでいるプロジェクトや想いについて語っていただきました。
小関 賢次 さん
新潟県上越市の生まれ。県立高田高校卒業後、日本大学理工学部航空宇宙工学科に入学。
卒業後はNTT データグループに入社し、国土交通省の航空管制システム開発に18 年間従事。前職では航空機の軌道(トラジェクトリー)推定アルゴリズムを開発し、航空管制業務の自動化を大きく推進した実績をもつ。ドローンやエアモビリティの社会実装を推進するため、2018 年 3 月に株式会社トラジェクトリーを創業、代表取締役社長に就任。広域に複数のドローンを管理可能なAI 管制プラットフォームを開発し、自治体と連携し社会実装を進めている。
蓬田 和平(ヨモギタ カズタカ)さん
銀行、外資広告会社、リクルートなどを経て、PEファンド傘下でIoTデバイス開発のスタートアップのCOOとして経営をリードした経験を持つ。DRONE FUNDではソーシング、投資先のハンズオン、広報PRなど幅広く担当。2021年3月からトラジェクトリー社を担当。
NTT時代の飛行機の軌道予測プロジェクト
そこから「トラジェクトリー」が生まれた
ーーこれまでのご経歴と、トラジェクトリー社の創業に至るまでの経緯についてお聞かせください。
(小関)
新卒でNTTデータグループに入りまして、有人飛行機(旅客機)の航空交通管制システムを開発する部署に配属されました。もともと大学時代に宇宙工学を学んでいて、当時から人工衛星などの移動体の軌道シミュレーションを研究対象にしており、衛星がどこを飛んでいるかを推定するプログラムなどをつくっていたんですね。それもあって配属されたと聞いています。
飛行機の今飛んでいる場所を正確に計算するプログラムを10年振りに刷新しようというプロジェクトがあり、当時3年目の私にそれをすべて任せていただきました。若かったこともあり本当に苦労したのですが、ちゃんと世に出すことができ、そのプログラムは今だに全ての飛行機に使われています。飛行機の位置とか速度とか高度や針路とかは、全部そのプログラムが算出しているんですね。
それがうまくリプレースできたということで、次に任されたのが飛行機のニアミスを解決するプロジェクトでした。その当時、飛行機のニアミス事故が非常に多くて、国交省がニアミスをなくそうと特殊プロジェクトを立ち上げたんですね。私はそこに入れさせていただいて、今度はニアミスを解決するプログラムをつくることになりました。そのときに実は生み出したのが社名にもあるトラジェクトリーという概念です。当時、飛行機の軌道予測は最大でも3分までしか検出できなかったのですが、今でいう機械学習を使いながら予測精度を上げる取り組みをしました。これもかなり困難なプロジェクトだったのですが、結果として30分先までかなりの精度で予測できる結果を出しまして、それが正式に国土交通省の管制システムのプログラムに採用されました。このプロジェクトの成果により、ニアミスの事故を大幅に減らすことができました。
その後、飛行機を自動航行化することで、飛行機に関する事故の大半を占めるヒューマンエラーによる事故をなくそうという研究を進めました。ただ飛行機の世界は、10年スパンでリプレースがかかるものですから、自分が研究していくスピードと、世の中に出していくスピードが途中からちょっと合わなくなってきまして、社内で悶々とする時期が出てきました。そんな時にドローンが登場してきたんです。ドローンは最初からパイロットがいない自動航行のプログラムと言えます。技術を見たときに、これが生まれたら、これを動かすのは人じゃなくてシステムしかできないと思ったんですよね。最初から人が介在しないアーキテクチャなんですよ。今それを一生懸命人が飛ばしていますけど、ドローンは、プログラミングでかなり細かく動くことが得意なんですよね。その能力を引き出すような動きをした方がドローンにとってもいいだろうし、私も自動で全てを管理できる世界というのがつくれると思ったんです。それであればドローン側に移って、それにチャレンジしてみたいと思ったのが、この仕事をするきっかけです。
ーー2016年に創業当時のお話をお聞かせ下さい
(小関)
創業当時から管制というテーマはありましたが、誰がこれに対して対価を払うのかというビジネスモデルのところは本当に分からないまま、暗中模索の日々でした。ただ必ず無人航空機を管理する仕事、またはその役割は存在するというところは確信を持っていたので、その技術、製品に関してのプロダクトづくりを始めていったという感じです。
仲間集めについては、私の知り合いやNTTデータ時代の後輩に声をかけて来てもらいました。ドローンの管制システムは安定性や信頼性が非常に重要ですので、信頼できるメンバーに声をかけて始めたという形です。
自治体や地域住民の社会受容性を高めながら
ドローンが社会実装される事例を積み上げていく
ーートラジェクトリー社が取り組んでいる社会課題やビジョンについて教えてください。
(小関)
我々が目指しているのは、ドローンが日常的に空を飛ぶようになった時に、ドローンの航行を制御するために不可欠な「ドローンの管制システム」を提供することです。たくさんのドローンが飛んでも、一台一台がぶつからないよう、その飛行計画を管理し自律飛行をコントロールするのが管制システムです。ドローンはパイロットが操縦するイメージがあるかもしれませんが、ドローンは自律飛行していないとナンセンスだと思っています。ドローンを飛ばして物を運ぶということは、当たり前の機能として提供しつつ、それを管制システムで、自律飛行で飛ばせるような社会になってこそ価値が発揮できると思っています。現時点では、ドローンを飛ばす時に、安全上、現場にパイロットと呼ばれる人がついて飛ばします。長距離飛行させる場合は、それを監視する人員も必要です。人がいなくても実際飛ばせるのですが、安全面の配慮から人を数名配置しないといけない。そのあたりが、非常にコスト的な負担になるんですね。そういった背景からドローンを導入しても費用がかさむので、経済的な効果が出ないというケースもあります。一方で、実はドローンはかなり精密に制御することが可能です。ちゃんと事前に計画を組めば、人が操縦するより、はるかに正確に複雑な地形での飛行や、着陸などができます。人が目分量でやるよりは、はるかに正確にできるわけです。ただそれはパイロットレスになるので、そこが現在の法規制とのバランスが重要にはなってくるところです。
将来的には、人が介在しなくてもドローンが安全に使われるようになる社会をつくっていくということが、私たちのビジョンになります。
ーーそのために今どのようなことに取り組んでいるのでしょうか。
(小関)
そのビジョンの実現に向けて今取り組んでいるのは、ドローン自体をもっと多くの方に使ってもらえるようなルールづくりや、場づくりです。例えば、私達がメインで取り引きしているクライアントは地方自治体になりますが、ドローンを活用する際に、ドローンを飛ばしていい土地の許可が非常に重要になります。よく社会受容性という言葉を使うのですが、住民の方の理解が非常に重要なんですね。ドローンは使い方を間違えると危ないものですし、プライバシーを侵害し得るものにもなるので、信頼関係がないと住民の方は嫌がるケースが実は多いんです。ドローンの性能は年々上がっており活用範囲は広がっていますが、よりビジネスの現場で使われるようになるには、そういった社会的な理解を得るということが非常に重要になってきます。ですので、民間の方がもっと気楽にドローンを事業に使っていただけるような場づくりと、そこに地方自治体が協力するような枠組みを創っていくような活動に注力しています。
ーー具体的な事例について教えて下さい。
(小関)
石川県の加賀市との取り組みが、とても分かりやすい例になります。弊社がドローンを活用して3Dマップを作成し、加賀市でドローンを飛ばす場合は弊社が管制をするというルールの中で実証実験をしています。様々なパートナー企業様と一緒にトライしながら、ドローンが建物などの障害物を避けて飛行できる安全な空域交通網の整備を行っています。「ドローンは安全に使えますよ」ということを丁寧に住民の方々に説明をし、加賀市全域のどこでドローンを飛ばしても、受け入れてくださるという環境づくりができています。こういったいい例をつくって全国に広げていくということが、今やっている活動の主体になりますね。
(参考記事)
【石川県加賀市】3Dマップを用いて全国初の有人地帯における目視外飛行(Level4)を想定した医薬品配送実験を実施
https://www.trajectory.jp/news/30
(蓬田)
「ドローンがたくさん飛んで、管制が必須だ」という世界の実現には、いくつかのハードルがあると思っています。まずはドローンを実際に飛ばすことに対して、様々な点をケアしないといけないという啓蒙活動も含めて、トラジェクトリーは各自治体さんと一緒に取り組んでいる段階だと思っています。今個別で飛ばしているドローンの実証実験では、どんな作業ができるのか、センサーからどんな情報取れるのか、という点をメインにやっていますが、いざ飛ばす時には、他にも様々なことに注意しながら飛ばさなきゃいけない。そのケアすべき点について、トラジェクトリー社が場合によっては自社でドローン導入も行いながら進めています。ドローンがたくさん飛ぶ時代になったら、より管制システムに集中という形にもちろんなると思いますが、今はそのために必要なステップを踏んでいると思っています。
ーートラジェクトリー社の強みはどの点になるのでしょうか。
(小関)
なるべく管制にこだわりつつ、管制に紐づけたサービスを創っているところが、私達ならではかなと思います。他社のドローンスタートアップでは物流に特化されているところが多いですが、私たちは物流プラス管制という領域で実証実験しているという点は、差別化としてこだわってやっています。
ーー今後の事業展開について、どのようにお考えでしょうか。
(小関)
2023年くらいには、特定の自治体の中で複数のドローンが使われる事例が出てくると思っています。根拠としては、レベル4(ドローンの有人地帯における補助者なし目視外飛行)の法的な解禁が、2022年12月に決まったことです。一方で決まったからといって今ドローンを飛ばしていない自治体が、いきなりそのような事業をできるわけではありません。蓬田さんが先ほど仰っていただいたように、私たちも啓蒙活動をしていきながら、準備が整った自治体がようやく2023年頃に4〜5例出てくるかなという印象です。
私たちとしても率先して、自治体さんと組んで先行事例づくりをやりたいと思っており、それが加賀市さんだったり、東三河ドローン・リバー構想推進協議会でやっている豊川市新城市さんだったり、その次には浜松市という都市エリアへの展開を目指しています。それぞれの自治体にドローン企業がなかったりするので、ドローンの導入自体のサポートから本当に地道にやっています。東三河ドローン・リバー構想推進協議会では、国交省、経産省、内閣府、地元の企業に参加いただき、弊社がハブになって場をつくっています。今後の課題は、実際にドローンを飛ばしてビジネスとしてちゃんと成立するか、役に立つか、継続できる枠組みにできるか、などだと思っています。
ーー担当キャピタリストからみた、トラジェクトリー社の魅力を教えて下さい。
(蓬田)
「ドローンの管制」を事業のど真ん中に置いて、そこに賭けているというのは魅力だと思っています。そして、小関さんの社会課題に取り組むスタンスは、とても共感しています。ベンチャーキャピタルの立場の私が言うのも変ですが、事業としてすぐにグロースする市場ではないかもしれませんが、今後の社会には必要不可欠で、誰かが取り組まなきゃいけないところに、先陣を切ってひたむきに取り組んでいらっしゃいます。将来、ドローンがたくさん飛んで、航空管制をアップデートしていかなきゃいけない時代になった時に、トラジェクトリーの管制がスタンダードになっているという未来がとても楽しみです。
大企業的な強みを持ち合わせたスタートアップ組織だからこそできる
「社会インフラをつくる」という挑戦
ーートラジェクトリー社の組織カルチャーについてお聞かせください。
(小関)
現状のカルチャーでいうと、スタートアップでありながら、大企業的な雰囲気も持ち合わせている会社かなと思います。個々が役割分担をしながら責任を持って進めていくという形でスタートアップのスピード感を出しつつも、組織的な管理もしっかりやっている会社だと思います。
一方で私がすごく注意していることは、ヒエラルキーというか、縦の関係にならないように、横の関係をいかにキープするかです。年齢は20代から50代までいて、役職の違いもありますが、ちゃんと対話をして決めていくことを大事にしています。コミュニケーションの場は多くつくるようにしていまして、例えば若いメンバーだけで話す場とか、若いメンバーと上層部が話す場であったりとか、ドローンのテストをする時は、現場で和気あいあいしながらやっていくとか、そのような場作りを大切にしています。
ーー今後事業拡大されていく中で、どのような方にトラジェクトリー社に入っていただきたいでしょうか。
(小関)
結構大きなプロジェクトを頂くことが多くて、プロジェクト管理、プロジェクトマネジメントの経験がある30後半から50代くらいの方にはきていただきたいです。また、お客さまと対話をしながら、詳細が決まっていない中で仕様を詰めていくところもあるので、しっかりお客さまとのコミュニケーションをとって対話していただける方、お客さまの立場で物事を考えながら、一方で会社の導入するものを無理なく入れていくような事業開発できる方というのは、非常に求めています。地方自治体の方がお客さまですので、どうしてもドローンについて分からない方が多く、一から仕組みを説明するところから入ったり、予算の組み方等含めて説明したりなどしています。一方で国もやっぱり絡むんです、内閣府、国交省、経産省、そういった方々との対話もあるんです。複数の立場の異なるステークホルダーに対して、しっかりコミュニケーションできることが必要です。
(蓬田)
小関さんが話すからこそ自治体の皆さんへの啓蒙活動や、ドローンの使い方の話が説得力がすごくあるなと思う一方、担当キャピタリストとしては、やっぱり小関さんには将来的なビジョンに向かって注力してもらいたいと思っています。そういう意味では、小関さんが動かなくても現場でのセールス活動やプロジェクト管理を安心して任せられるような方にきていただきたいと思っています。
ーー最後に、スタートアップやドローンに関心がある方へのメッセージをお願いします。
(小関)
ドローン自体はツールなんですよね。トラジェクトリーで働いていただくことで感じていただけるものとして、やっぱり社会インフラになる、社会インフラをつくったという責任感だったり、充実感、達成感を味わってもらえると思います。ドローンはそういうインフラになってきているんですよね。今はまだ黎明期ですが、これから10年で確実に社会変革が起きます。それを海外に広めていくというのがトラジェクトリーの使命だと思っています。日本から社会インフラを世界に発信していくというビジョンに、ぜひ魅力を感じてくれると嬉しいです。
(蓬田)
航空管制のアップデートという、壮大なビジョンを掲げている、志の高さがトラジェクトリーの魅力だなと思っています。そこに共感し、興味を持ってくださる方に、ぜひきていただきたいなと思っています。ご応募お待ちしています!