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【Gazelle Capital/大谷】対話を尽くし、起業家に寄り添いきる。人材育成のスペシャリストが築く、投資家としてのキャリア。

<左 大谷様、右 One Work土屋(インタビュアー)>

GazelleCapitalは50社近い投資実績を持つVCであり、設立5年目のスタートアップとしての顔も持つ“スタートアップVC”だ。「価値観を押しつけることはせず、対話を尽くすこと」。そう語る大谷氏は、Appleを中心に人材育成をコアキャリアとするなど投資家としては稀有なバックグラウンドを持つ。キャピタリストとしても人に向き合い続けることが全ての根幹であるという信念を持つ同氏に、Gazelle Capitalの目指す世界観、起業家への想い、そして入社から1年間で得た気づきや喜びを聞いた。

大谷 直之さん
大学在大学在学中に、Apple Japanに入社。社員への1対1コーチング、1対多のトレーニングなど退職までの6年半で複数のポジションに従事。2018年1月、Appleで働く傍ら兵庫県の淡路島で合同会社を創設。主に、ハンバーガーの移動販売、カフェ店舗業。畜産業(牛の繁殖)などを行う。2020年から1年間、BlueBottleCoffeeで店舗マネジメントに従事。2021年からビデオ通話サービスを提供するFacePeerで2年間、事業企画、営業マネージャーとして従事。2023年12月、学生時代から国際協力団体にて付き合いのある石橋からの誘いとGazelle Capitalのミッションに共感しジョイン。

キャピタリストに行きつくまでのキャリアの岐路と選択。

–御社に参画されるまでのご経歴を教えてください–

関西外国語大学に在学していた3年生の春先にAppleJapanに契約社員として入社することになったのがキャリアのスタートです。ちょうど自身が学生として何を学ぶのか迷いが出ていたタイミングでもあり、同時にビジネス・ブレークスルー大学への編入も決めました。Appleではのちに正社員に登用され、店舗の接客から店舗立ち上げ時の社員トレーニングなど、人材育成に関わる仕事を中心に6年半勤務し、これらに重なる形で、出身の兵庫県淡路島で、ハンバーガーの移動販売やカフェ等の飲食業と牛の繁殖業を営む合同会社を起業しています。Apple退職後、自身の会社は友人に譲渡し、BlueBottleCoffeeに縁があり店舗マネジメントと人材育成を担当。その後2021年から大手企業の子会社でビデオ通話サービスを提供するFacePeerという会社で事業企画、営業マネージャーとして従事しました。約2年勤めたのち、2023年12月からGazelle Capitalに参画しています。

–Appleから転職したきっかけは何だったのでしょうか–

<左 当時の大谷様、右 石橋様(代表パートナー)

たまたまBlueBottleCoffeeの当時アジアとアメリカの採用責任者をやっていた方が、SNSでコンタクトしてくださったことがきっかけです。その方とは面識はありませんでしたが、過去にAppleで採用担当をしていたことがあり、私のキャリアにおける強みや課題を即座に理解してくれた上で、BlueBottleCoffeeの人材育成が次のステップの選択肢になるのではないかと提案をしてくれたのです。Appleで成果を挙げられたのは、自分のスキルなのか。あるいは環境の整った大きな組織で、マニュアルや入社する人たちの受け入れる力の高さで支えられているだけなのかもしれないという葛藤が生じ始めていた時期でもあったので、より小規模なところで人材育成に向き合いたいと転職を決めました。FacePeerはそれまでtoCビジネスにおける人材育成を経験した上で、自身のキャリアから逆算したときにtoBで事業をつくる経験値を積みたいと考えて選択したという背景になります。

現職に転じた経緯については、少しわかりづらいので、ホームページには「学生時代から付き合いのある石橋からの誘い」としているのですが、私は関西外国語大学に在学していた頃に途上国の子どもたちを支援する学生団体に入っており、それは石橋が早稲田大学で創設した団体でした。石橋から私が学生団体の代表を引き継ぎ、その後現在も運営を継続するNPO法人STUDY FOR TWOで12年以上交流が続いていく中で、お互いに人となりや得意不得意を理解していたこともありキャピタリストに興味がないかと声をかけてもらったのがきっかけです。

–キャピタリストの仕事で経験が活かせていると感じるのはどのようなことですか–

ハードスキルの面ではtoBの事業計画を策定するという経験は活かせる場面が多いと感じます。あとはコアにしてきた人材育成の面で、ソフトスキルに近いという解釈もできるのですが、相対する人の成長を促すようなコミュニケーションをいかにとるのか、それが必要だと思ったときには、起業家の方やチームにも伝えます。これは私のキャピタリストとしてのバリューとも言えるかもしれません。

–入社前後でベンチャーキャピタルに対して抱いていたイメージと現実のギャップはあったのでしょうか–

すぐ思いついたのは2つで、1つ目は、思ったより世の中に起業家は多いということです。私も21歳で起業を経験していますが、まだ起業するということ自体が珍しかったのではないかと思います。もしかしたら私の周囲に少なかったということもあるかもしれませんが、当時から10年弱経って、会社を立ち上げている、あるいは志す方は間違いなく増えていると思います。また、高校卒業直後から起業を目指しているという方にも何名かお会いしており、そういった面でいい意味でのギャップを感じています。

2つ目はキャピタリストのネットワーキングで、ビジネスにおける横のつながりの重要性を日々感じています。前職はSaaS企業で同業他社はライバル企業ですので、ほとんど交流することはありません。VCは業界全体で一緒に盛り上げていくという感覚で、これは自分たちが投資をしたところに一緒に投資をしていただくことや、自分たちの次を担っていただくという関係性になることが多いという構造に由来すると思いますが、他の業界を見渡しても特殊なことなのではないかと思います。

Gazelle Capitalが目指すレガシー産業の変革。
小さな一歩だが、確実な手応えも感じている。

–Gazelle Capitalについてもお聞かせいただければと思います。ファンドの特徴を教えていただけますか–

まず当社がGazelle Capitalとしてファンド本体の機能を持ち、さらにそのファンドと事業会社さまと一緒につくっている二人組合という形でのCVCで構成されます。前者の本体側、つまりGazelle Capitalにおいては基本的にはプレシードやシードと呼ばれる創業期ないしは創業期から数年以内の売上がまだ立っていないような企業様を中心に投資実行しております。創業期の中でも製造業や不動産、建設などレガシー産業とされる分野への支援を強く訴求する形でLPさんにはご理解いただいています。

CVCについては、他のVCさんも運営されているところはありますが、それと比べると小規模で変革の足掛かりをつくるという役割を目的に置いています。そもそもCVCの目的は、例えばDX化が進まない製造業や建設、医療等の分野において、その業界で既に知見を持ち、ある程度ステータスを確立させているような先行企業が、業界をさらに変革しうる次の担い手に投資をすることで相乗効果が生まれることだと考えています。先駆者たちがスタートアップを担ぎ、一緒に大きくして、業界全体が良くなっていくという世界観に価値があるのです。代表の石橋自身がもともとCVC出身という知見も生かし、このような目的のもとでCVCをやったことのない事業会社様ときっかけづくりを行っていくことは意義が大きいのではないかと思っています。

–レガシー産業にかける思いを詳しく教えてください–

日本は戦後から製造業をはじめとした伝統的な産業、レガシー産業と称される分野が支えてきた国だと思っています。高度経済成長は分かりやすくそれらの産業発展があったからこそです。一方で、これまでの日本をリードしてきたレガシー産業の業績が伸びているか、雇用を拡大し続けられているかと言うとそうではありません。私共としては、企業の母数はもちろん、そのような過去の背景もあり産業全体への影響力があるからこそ、変革の支援ができれば日本はまた一段成長できるのではないかと強く信じています。

–大谷様個人の経験や想いとも通じる部分はあるのでしょうか–

私個人としては自身で会社を運営していた頃に感じた現実から、挑戦していることの難しさともに解決することによるインパクトの大きさも感じています。畜産というまさにレガシー産業で、農場にいるおじいちゃん、おばあちゃんたちがDXツールを使うかと言えば使うわけが無い。ただそれができると、一気に生産性が変わるし、仕事のプロセス自体は別のものになるとも言えます。その意味でツールの重要性があるという納得感は強く、スタートアップの力を使って産業が成長していくというのは大きな価値があると考えています。

–今回3号ファンドを設立されましたがその背景や投資戦略をお伺いできますか–

背景としては、1号、2号合わせて累計で大体45社程度投資実行させていただいていますが、それでも日本の中小企業が約170万社以上と言われることを踏まえると、私たちが発揮できている影響力はまだまだ小さいと考えています。基本的には1号、2号ファンドと投資方針や領域を大きく変えることはありません。Gazelle Capitalが良い雇用を生み出すスタートアップを増やしていくというところを目標にしており、先ほどのお話のようにレガシー産業をどうやってアップデートしていくのかという莫大な時間や資金、あるいは雇用や時に法令にも関係するような話をしています。これまでの営みで、目指す世界観が達成できていると思ってはおらず、方向性を大きく変えるということは考えていないということです。

–投資先に伴走する過程で、どのような場面で手応えを感じるのでしょうか–

私たちが影響を与えたというとおこがましさも感じますが、やはりプレシード期やシード期に投資した企業が追加調達に成功した、初めての売上が立ったということを目の当たりにしてきて、資金やミーティングも含めて定期的に接点を持ってきたことが少しでもきっかけになったと感じられる瞬間は、価値になっているのかなと感じることがあります。担当した投資先が初めての売上を立てたという報告を受けた時は、思った以上に嬉しくて。これは夜お酒を飲んじゃいたいなと、お祝いしたいなという最高の気分でしたね。

背景を理解するまで対話することで、互いの意志への尊重が生まれる。

–御社のカルチャーや大切にされている価値観を教えてください–

会社全体として大事にしている価値観としては、起業家の方に寄り添いきるということです。彼らの望む成功ができるかどうかというところに対して、本気で向き合って、一緒に悩みながら成長をしていく。それがキャピタリストの喜びだよねという思いを持っていることは共通していると思っています。代表を含めて3人の組織ですので、連携は密にとっており、週3、4回ぐらいは1時間枠で一緒に作業をする時間をつくっていたり、コーヒーを飲みながら一緒に何かをしたり、お互いが面と向かって話す時間を大切にしています。もちろん情報共有のミーティングは別の時間にあるものの、みんなが同じテーブルで向き合いながら、少し雑談もしながら作業をするという時間は意識的に取るようにしています。付け加えると、投資判断のときもそうですが、誰か1人が全て決定するということはほとんどありません。3人がお互いの考えやその背景を尊重し、話し合った上で決めるということがほとんどの事象においてあてはまっていると思います。

私個人としては、今までの経験上「こうあるべきだよな」とふと思うことに対して、このべき論は正しいのかを見つめなおすことを意識しています。自分のべき論が強すぎると、誰かや何かに対してストレスを感じる要因になりますし、価値観を強要するのは私自身すごく嫌なことだと思っています。ですので例えば誰かが何らか私の考えうるミスをしたときでも、それはミスではなく、意図があるのかもしれない。ミスとして一言目に声をかけるのではなくて、なぜそうしたのか、どういう背景でそれをやってくれたのか、というようなお互いの考えを持った上で声をかけ合うこと大切だと考えています。組織において、かくあるべきというものができていないときに、できていないことが駄目だというよりも、できていないと認識できているのであれば変わればいい。チームの一員としてあるべき姿に戻せばいいという考えです。3人しかいないから、正解だと思うことがあるならその正解に向けて変えていけばいいというスタンスで各々が動いており、自分たちのことを『スタートアップVC』と言ったりもします。

–Gazelle Capitalに合致する人材像を教えてください–

最も重要なことは対話を避けないことだと思います。例えば自分のパフォーマンスを最大限発揮するために理想とする労働環境があるのはよいことですが、それがないと働けない人よりは、その環境をどうやったらつくっていけるのか、試行錯誤できるような方のほうが向いていると思います。その過程でコミュニケーションは不可欠で「自分はこうだと思っているけど、あなたはどうですか」と自ら働きかけることから始まります。これがひいては1日数回、月で言うと数十回起業家や関係者の方々と相対するコミュニケーション能力にも影響してくると思いますので、必須の要素ではないかと思います。

–価値観を押しつけないというお考えに合致しますね。御社で働く上でのやりがいはどのようなところにありますか–

様々な起業家の方にお会いし、彼らが世界をどう変えようとしていくのかというのを、一番近い環境で見ることができるというのは、この業界に身を置く上での魅力ではないかと思います。それは単にこのツールで世界を変えます、という話に留まらず、日本において、わざわざ起業してまでそれをやる背景やバックグラウンドは何なのか。それらの生々しい原体験や現実を聞くことができるというのは、あまり他の仕事では味わうことができない価値だと思います。話を聞きながら、そういう環境に身を置いて、そういう生活をしていたら重要だと感じるんだな、という気づきを得る場合もあれば、純粋にワクワクして楽しいこと、時に苦しみも感じることができる。そしてその上で、何十社、何百社とお会いして、実際に投資実行ができた際には、自分が選んだその方、自分を選んでいただいた起業家の方が成長するさまも間近で見ることができ、先ほどご紹介したように初めて売上がたった瞬間の喜びは、忘れられません。

VCという業界全体に言えることかもしれませんがその中でも当社は小さい組織なので、自分の理想の労働環境をつくれる可能性がある会社だと思っています。もう一つ加えると、プレシード、シードに特化して投資検討をしていると、お会いできる起業家の領域が似通ってくることが多いです。当社はCVCもやっており、CVCではそれより進んだステージのスタートアップともお会いできますので、そういった出会いのバリエーションの広さはGazelle Capitalならではの魅力だと思います。

【参考】
・Gazelle Capital YouTube番組『スタートアップ投資TV
・Gazelle Capital ポッドキャスト『スタートアップ投資.fm

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【この記事取材を行った人】
エージェント事業部 土屋 光太郎

大学時代にはまちづくりの活動に没頭。全国で行政・企業・大学・地域住民等、多様なセクターの人々を巻き込みながら企画提案・組織運営などを行う。その後、大学院に進み、コミュニティ論を研究し、最優秀賞等の複数賞受賞。

価値の源泉は人だと感じ、2016年リクルートスタッフィングに入社し、求職者の皆様のキャリアに伴走する。また、金融業界(銀行、証券、生保、損保等)を中心に、数名のベンチャー企業から数万人規模の大手企業まで、様々な規模・職種のお客様に対する法人営業に従事。常に200名近くのキャリアに伴走しながら、500名以上の就業機会を創出し、メンバーのマネジメントを行いながら、全社表彰を含め数々の賞を受賞。人材の力を通じて、社会全体を豊かにしたい。という思いからスタートアップ企業の急成長を支援するOne Workに参画。コンサルタントとしてキャリアアドバイジングをメインに活動中。 

【保有資格】
キャリアコンサルタント(国家資格)
2級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)

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