Top / Social Impact / 【ディープコア/村上】スキルとスタートアップが”リンクする”場 ─ 偶発的な出会いをデザインする「LINKS by KERNEL」の挑戦
AIに特化したスタートアップ投資および起業家支援を手がけるディープコア。
同社でHRBP(HR Business Partner)を務める村上氏は、スタートアップに関心はあっても踏み出せない人たちが、一歩を踏み出せる“仕組み”を考え続けている。
そんな村上氏が立ち上げたのが、”スキルとスタートアップがリンクする”コミュニティ「LINKS by KERNEL(以下、LINKS)」だ。
従来の採用が“面接一発”の「お見合い型」だとすれば、LINKSが目指すのは「自然恋愛型」の出会い方。立ち上げから1年半で、副業を中心に数多くの参画事例が生まれている。
今回は村上氏に、LINKSの立ち上げ背景や、活動内容、今後の展望を聞いた。
村上 悠太(むらかみ ゆうた)さん
ソフトバンクで採用・人事制度設計、新規施策の立ち上げを経て、2018年よりDEEPCOREに参画。同社の人事全般を統括しつつ、投資先AIスタートアップのHR支援を通じた組織開発を推進。
2023年にスタートアップキャリアコミュニティ「LINKS by KERNEL」を設立。
スタートアップや大企業の新規事業部門を対象に、組織開発・チームビルディングの講演・研修・ワークショップを多数実施。
BCS認定ビジネスコーチ、米国Gallup社認定ストレングスコーチ。
シリコンバレーで見た“起業を支える仕組み”──仕組みづくりの原点
— 採用や人事制度など、人と組織に関わるさまざまな領域を経験されてきたと思います。最初のキャリアから教えていただけますか–
あらためて振り返ってみると、“仕組み”作りに自然と惹かれて、それを意識してきたかなと思います。
新卒でソフトバンクに入社し、新卒採用を担当しました。当初は「優秀な人を見極めて、いかに口説いて入社してもらうか」という視点で取り組んでいましたが、次第に考えが変わってきました。
単に“選ぶ・選ばれる”ではなく、
人が出会うべき会社と、適切なタイミングで接点を持てるようにするにはどうしたらいいのか、採用という仕組みそのものをどう設計すればいいのか、という関心に広がっていったんです。
そうした意識から、新しい採用施策の企画や仕組みづくりにも携わるようになりました。
— そんな中、シリコンバレーの訪問が転機になったそうですね。
はい、新しい採用施策として、内定者向けのシリコンバレー派遣プログラムを立ち上げて、引率で現地を訪れました。
その際、グローバルに起業家支援を展開するアクセラレーター「500 Startups(現・500 Global)」を訪問する機会があり、そこで目にした光景が、今でも強く印象に残っています。
起業家や起業を目指す人たちが、その場でメンターと輪になって話し、レクチャーを受け、リアルタイムでフィードバックをもらっていました。
そうしたやりとりが、オープンな空間のあちこちで自然に起きていたんです。
正直、それまでは「起業って才能とか情熱のみで突き進むアートのようなもの」だと思っていました。でも、その場には起業を後押しする“仕組み”が存在しており、
「起業という挑戦も、仕組みによって加速できるんだ」と、すごく驚いたのを覚えています。
大学時代に塾で教えていた経験もあり、人の学びや成長には以前から関心がありましたが、当時取り組んでいたのは、勉強という正解のある領域への支援でした。
それとは正反対の、正解が全くない”起業”という領域に対して、仕組みによって支援できることがある、という点に非常に感銘を受けました。
属人的に思われがちな挑戦を、構造として支えることができる。それは、自分の中で“仕組みの力”を意識するようになった、最初の大きなきっかけだったと思います。
— その後は、ソフトバンクで人事制度にも関わられていますね。–
採用という“外から人が入ってくる仕組み”をやった後は、社内の人がどうすれば力を発揮できるか、そうした“内側の仕組み”に関心が移っていき、人事制度の企画や設計に携わるようになりました。
制度の設計によって、人の意思決定や行動が変わることを実感し、仕組みの持つインパクトを実感した経験でした。
人とスタートアップの“偶然の出会い”を、構造化する
— ディープコアに入社されてからは、どのような仕組みづくりに取り組まれているのでしょうか?–
ソフトバンクで制度設計に携わる中で、次は自分の手でいちから人事制度づくりに携わりたいと考えるようになり、立ち上げ期のディープコアへ2018年に入社しました。
ディープコアでは、人事制度づくり・採用等の人事全般や投資先のHR支援に加え、2023年11月からは”スキルとスタートアップがリンクするコミュニティ”「LINKS by KERNEL」を立ち上げて運営しています。
スタートアップに関心がある人は増えているものの、一歩を踏み出せる人はまだまだ少ない印象です。
実際、「スタートアップで働いてみたい」と回答した人は約30%いる一方で、具体的に転職先として検討している人はわずか1.1%にとどまるという調査結果もあります(※出典:フォースタートアップス「スタートアップ企業に関する意識調査(2024年)」)。
このギャップの背景には、“偶然の出会い”の不足があると感じています。
キャリア理論の一つに「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」がありますが、そこでは、キャリアの多くは予期せぬ出会いや出来事によって動くとされています。
つまり、偶然をどう設計するかが、人の選択肢や行動を広げる鍵になる。
だからこそLINKSでは、スタートアップと自然に接点が生まれる“偶然の仕組み”を意図的につくっています。
誰かとの会話やイベントでの出会い、Slackでのやりとり——そうした「予期せぬ接点」が、スタートアップに一歩踏み出してみようと思えるきっかけになることもあります。
実際に、いきなり転職ではなく、副業やプロボノというかたちでスタートアップに関わり始めるケースも多く、LINKSは、そうした関係が自然に育っていく場になっています。
— LINKSではどのような活動をしているのですか?
LINKSでは、4つの活動を軸に、メンバーのスキルとスタートアップがつながる“きっかけ”を設計しています。
1つ目は「マッチング」。参加者全員と面談を行い、関心やスキルに応じてスタートアップをご紹介します。
2つ目は「イベント」。AIスタートアップのCEOを招いたトークイベントや、ピザパーティのようなカジュアルな会など、交流の場を設けています。
3つ目は「コーチング」。専門家との対話を通じて、自分の強みや価値観を言語化し、スタートアップでの活かし方を一緒に考える時間です。
4つ目は「コミュニティ」。Slackでのやりとりや雑談会を通じて、ゆるやかな関係性を育てています。
スタートアップとの出会いはいまだに、“面接一発勝負”が主流です。
でもLINKSが目指すのは、「お見合い」ではなく「自然恋愛」。
たとえば、Slackやイベントでの雑談を通じて、「なんかこの人合いそう」と思った二人が、副業として一緒に働き始める──そんな“偶然の出会い”が、コミュニティの中から自然に生まれています。
まさに、最初から「この人と結婚する」と決めて始まる“お見合い”ではなく、日常の中で惹かれ合っていく“自然恋愛”に近いなと感じています。
実際、LINKS経由でスタートアップに関わった人の7〜8割が副業からのスタート。
副業というかたちで価値観やスタイルを知り合い、「一緒にやっていきたい」と思えたら、自然と次のフェーズへ進んでいく。
そうした形で正社員としての参画に至るケースもあれば、あえて副業というかたちを継続しながら、並走し続けるケースもあります。
どちらにせよ「関わり方の柔軟さ」が、スタートアップと人をつなぐ上での重要な要素になっていると感じます。
スタートアップ側もまた、本気で一緒に走れる仲間と出会いたい。
だからこそ、いきなり「お見合い結婚」ではなく、まずはライトな関係性から始めてみる。
一緒に働く中で、お互いの価値観やスタイルを知っていくことで、「この人とならやっていける」と確信が持てるようになるんです。
●LINKS by KERNELの詳細はこちら↓
https://deepcore.jp/kernel/links
— 約1年半で生まれたLINKSの成果や兆しはどのようなものがあるのでしょうか–
LINKSのコミュニティ参加者は400名を超え、これまでにスタートアップへの参画事例は累計40件以上。イベントの累計参加者数も1,500人を超え、少しずつ裾野が広がってきている実感があります。
嬉しい事例も複数生まれています。たとえば、長くHR領域で経験を積んできた方が「自分のスキルがスタートアップで通用するかどうか自信がない」と話していたのですが、あるスタートアップとお繋ぎしたことをきっかけに副業としてジョイン。
今ではその会社の採用活動をけん引する、頼もしい存在になっています。
また別の方は、キャリアに漠然としたモヤモヤを抱えている状態から、LINKSでのコーチングをきっかけに「海外でエンジニアとして働きたい」という想いを言語化。
その後、LINKS経由で実際に海外で働く方とオンラインで話す機会を持ち、その会話がきっかけとなり、目標が“現実の選択肢”として動き出していきました。
— One Workとしても、協働させていただいたLINKSの価値をお聞きできて嬉しく思います–
大須賀さんとは構想段階からディスカッションを重ね、スケジュールもタイトな中で多くのご支援をいただき感謝しています。One Workさん無くして、このプロジェクトを立ち上げることはできなかったと思います。
ディープコアとして、スタートアップ投資や起業支援の知見はあっても、「人とスタートアップをつなぐマッチング事業」をゼロから立ち上げるのは初めて。そんな中で、One Workさんの持つ実務ノウハウや現場視点が心強かったです。
特に印象的だったのは、代表の大須賀さんが、企画だけでなく実行にも深く入り込んでくださったこと。
抽象度の高い構想の話から実務レベルまで、プロジェクトに必要なピースを共につくってくれました。
— こちらもご一緒させていただけたことで学びが多くありました。本当にありがとうございます。最後にLINKS by KERNELの展望をお聞かせください–
嬉しいことに、最近では紹介で入会いただくLINKSメンバーが増えてきて、約半数が紹介経由となっています。
「この人にもこの場がきっと合うはず」──そんなふうに誰かに紹介したくなるコミュニティへと、少しずつ育ってきた実感があります。これからも、そうした“信頼の連鎖”が自然と生まれる場を大切にしていきたいと思っています。
また、スタートアップとのマッチングについても、これまでは私たち運営が直接お繋ぎするケースが多かったのですが、今後はそれに加えて、LINKSメンバーとスタートアップ起業家が直接つながる偶発的な接点をもっと増やしていきたいです。
Slackやイベントなど、さまざまなチャネルを通じて、“気づけばつながっていた”というような自然な関係性が立ち上がる仕組みを、意図して設計していきたいです。
さらに、LINKSの特徴は「長期的な時間軸でメンバーの挑戦を支援できること」にもあります。
たとえば、LINKSを通じてスタートアップに参画した方が、その後自ら起業し、今度は“仲間を集める側”へとステップを進めていく──そんな新たな循環も少しずつ生まれ始めています。
偶然から始まる関係性が、新たな挑戦につながり、その挑戦がまた次の出会いを呼び込んでいく。
そんな循環が自然に育つ場として、LINKSをさらに進化させていきたいと考えています。