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ヒトに“やさしい”材料で支える医療のスタンダードアカデミアから起業家への挑戦

機械と人の融合。
それには40年以上前から存在する『MPCポリマー』という素材が鍵になるかもしれない。インテリジェント・サーフェス(本社:千葉県柏市)は、生体組織すなわち人の体内に構造が似たポリマーにより、物質をコーティングすることで、人にやさしい医療機器の開発を後押しする東工大発・東京大学発ベンチャーだ。社長の切通氏は生粋の研究者でありながら、起業家として成長を遂げ、事業拡大に時間がかかると言われる研究開発型ベンチャーを創業から5年でコーティング剤を量産できるまでにこぎつけた。世界的にも珍しい素材系スタートアップならではの魅力、そして困難は何か。同社に出資するリアルテックファンド グロースマネージャーの山家創氏とともにインタビューを行った。

切通 義弘(きりとおし よしひろ)さん(インテリジェント・サーフェス株式会社CEO兼CTO)
東京大学大学院マテリアル工学専攻修了(博士(工学))後、産業技術総合研究所にてポスドク研究員、東大発化学ベンチャーであるアドバンスト・ソフトマテリアルズ(現 株式会社ASM)の主任研究員として医療機器開発を担当。東大石原研究室の研究員として従事する過程で国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の大学発新産業創出プログラム(START)に採択され、本プログラム終了後、インテリジェント・サーフェス株式会社を創業。生体膜表面を模倣した材料「MPCポリマー」を素材に固定化させることで、医療機器を中心に高度な生体適合性、防汚性、潤滑性を有する製品開発を支援中。

山家 創(やんべ そう)さん(リアルテックファンド グロースマネージャー)
東北大学経済学部を卒業後、研究開発型の半導体ベンチャーで経営企画などを経て、2015年にリアルテックホールディングスに参画。2020年には地域発のリアルテックベンチャーへ積極的な投資を行う「グローカルディープテックファンド」の組成をリード。参画企業である地域金融機関や事業会社と連携して、優れた技術を持つベンチャー企業を支援・育成することで、グローバルな課題の解決と地域経済の活性化を目指す。

機械と人の境目をなくし融合を実現するための
革新的なバイオインターフェイス、MPCポリマー

ーーどのような事業を行っているのでしょうか。

(切通)私たちは、生体膜表面を模倣したMPCポリマーという材料を医療機器の表面に固定化することで、医療機器の「表面」に起因する様々な課題を解決する事業を展開しています。私は東京大学でMPCポリマーの研究を進めていた石原研究室に所属し、学位も取りました。「その技術をもっと広く医療分野に役立てたい」という思いが強く、勢いで起業してしまったというのが実際のところです。

ーーどのようなことを実現する技術なのでしょうか

(切通)人体の中に細胞が30兆個から60兆個くらいあると言われています。細胞は袋状のもので、中心に核があって遺伝子情報が入っていますが、その袋にあたるものがリン脂質と呼ばれるものでできています。私たちはリン脂質の構造を基にした材料であるMPCポリマーを開発しています。MPCポリマーは、「血液適合性・潤滑性・防汚性」などの特性を有しており、革新的バイオインターフェイスと捉えています。今後、体の中に埋め込むようなセンサーや、人工血管、人工臓器などが発展・進化し、機械と人が近づいて境目がなっていく中で、MPCポリマーは、そういった境目をなくすための役割を受けもつ素材として最適だろうと考えています。インテリジェント・サーフェスという社名の由来にもなっていますが、機械と人の融合、色々なものが融合していくインターフェイスとして、このMPCポリマーを活用していきたいというのが、私たちのビジョンになります。

ーー具体的な活用事例を教えて下さい

(切通)医療機器は、近年の技術革新で優れたものが多く開発されています。材料の強度、弾性などの進化が進んでいるからです。一方で、人が生活をする上での医療機器という側面で考えると「最適」な性能まではまだ進化が必要です。例えば人工関節のようなものですと、長時間使っていますと、だんだん摩耗して擦り減ってしまうというのがあるんですね。摩耗して、1年で0.1ミリだとしても10年、20年すると、それが1ミリ、2ミリになってきて、相当ガタが来てしまう。下手すると脱臼したり、あるいは削れていく摩耗粉が体内で残っていますので、それが炎症反応を起こしてしまうということもあるのです。そこに生体膜と同等機能のMPCポリマーを材料にコーティングすることで、タンパク質が付きにくいであったり、血液の塊ができないなど、いわゆる生体親和性・安全性が高い医療機器に進化させることができるのです。

ーービジネスモデルやターゲット市場について教えてください

(切通)当社のコア技術である、MPCポリマーに関わる分子設計とポリマー合成、コーティング技術開発に注力する研究開発型企業として、成長していきたいと考えています。原料はサプライヤから購入したり、パートナーとの連携を中心に販売体制を構築することで、アセットライトな形で事業展開をしています。マーケットとしては、医療機器の市場規模は世界で50兆円以上と言われており、MPCポリマーを医療用途のビジネスに限ったとしても、非常に大きな規模になります。

「医療機器を何とかしたい」という起業家としての強烈な原体験

ーー社外取締役、投資家として内外から会社を見ている山家さんの視点について教えてください

(山家)私たちリアルテックファンドが投資しているディープテック領域は、まだまだマイノリティーな領域です。さらにその中でもMPCポリマーのような新素材の領域は、投資先としても非常に少ないんです。インテリジェント・サーフェスがやっている事業は、研究開発からモノが出るまでの時間が長かったり、モノはできてもそれを使う側の医療機器メーカーでもう1回研究開発を経て薬事承認が必要だったりと、収益化までの時間軸がとても長い。それでもなぜ投資に踏み切ったのかと言うと、切通さんに「起業家としての絶対的な魅力」を感じたからです。テクノロジーで社会課題にアタックしていく時に、どれだけパッションを持てるかどうかが重要で、そのためには原体験が必要だと思っています。切通さんには、ご自身の原体験を通じて「医療機器は生体と親和していないとだめだ」という強烈な問題意識があり、それがファーストインプレッションでした。

ーーどのような原体験だったのでしょうか。

(切通)目の角膜が少し変性(円錐角膜)してしまっているのです。そのため特殊なコンタクトレンズを使っていまして、医療機器に対して普通とは違う思い入れがあります。石原研究室に在籍していた頃もコンタクトレンズに興味があったので、MPCポリマーによるコンタクトレンズの研究をさせてもらいました。そこから医療機器に携わっている方々とご一緒する機会も増えましたが、特に材料メーカーの方は医療機器そのものには興味がないというか、頑張っても見返りが少ない領域、医療事故が起きたら会社としては大問題なのでリスクを取りたくない、という見方の方も多い印象です。一方、私は自身が大変な思いをしてきたという原体験もあり、MPCポリマーを医療に転用することに情熱を持っており、経営者としての拠りどころになっていると感じています。

そういう原体験もあって、山家さんに最初に接点を持てて、その後色々な人の巡り合いで良い人と巡り合えて、成長することができました。毎年のように資金繰りで波が襲いかかってきて、次の月にはもう資金がショートします、というようなことは何回もありました。その振れ幅がどんどん大きくなっていきましたけれども、必ず乗り越えてきましたので、心の耐性も強くなっていったという感じがします。

目立つ存在ではない。でも、胸を張って世界レベルの技術があると言える。

ーー今後のビジネス展開と、これからの成長に必要な人材について教えてください

(山家)ビジネスの展開の一つは、MPCポリマーを、資料(下記)にあるよう縫合針に塗ったらどうなるんだろう、血液バックに塗ったらどうなるんだろう、というような一般医療機器(クラスⅠ)、管理医療機器(クラスⅡ)への用途開発になります。ですので、必要な人材としては、既存のMPCポリマーを様々な医療機器に応用しながら、ビジネスデベロップメントを推進していく方になります。
もう一つのビジネス展開は、カテーテルや人工血管など、高度管理医療機器(クラスⅢ / Ⅳ)への応用というチャレンジです。切通さんと一緒に研究をリードし、MPCポリマーそのものを上市できるところまで開発できる人が必要です。研究開発型ベンチャーはどうしても技術ドリブンになりがちですが、お客さまのニーズに合わせて新しいポリマーをチューニングしていくというスタンスをお持ちの方だととても嬉しいです。

(切通)私のコアはやはり研究開発です。ビズデブをやりながらの研究開発はどうしても限界があるので、私が研究開発に注力できるよう、ビジネスサイドをお任せできる方に参画いただけると嬉しいですね。

ーー社会的インパクトという点で、メッセージをお願いします

(山家)医療機器そのものの概念を変えていくということに挑戦できると考えています。医療機器を材料の面から最適化できるんじゃないかということです。ハード側としての医療機器がある前提で材料を選択するというアプローチではなく、MPCポリマーという材料を起点に医療機器をつくった方が、患者、医師に対して最適なものができるというコンセプトです。医療機器を使っていること自体すら気づかないくらい人体に親和しているものとか、医師が何の負担もないくらいニュートラルに使える医療機器みたいなものを、この素材を通じてインパクトとして社会に提供できると非常に面白いと思っています。

(切通)今現在、様々な医療機器が使われていて満足している人も多いのですが、実はその先を知らないからそれで満足をしているというだけに過ぎないんですね。20〜30年後、医療機器は体内の古くなったパーツを入れ替えるような感覚で使われることになっていくと思います。不便と感じていなくても積極的に交換する。コンタクトレンズはおしゃれで使う人もいるくらいですので、医療機器でお化粧するくらいの感覚で使い始めるんじゃないかと思うのです。その時に、MPCポリマーは必ず必要になる。想像力を広げ、現状の課題じゃなくて、もっと先を考えて課題を先回りして研究開発していくことで、大きな社会インパクトを生み出せると思っています。一つ一つの部品は目立たないんだけれども、やっている技術については本当に世界レベルです。この技術を自信を持ってアピールして、普及させてくれる方が来てくれるといいなと思っています。ご興味を持っていただけたら、是非一度お話できれば幸いです。

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