Top / Social Impact / 【異能×異能 VCトップ対談】どうあるか、どう生きるか。私たちはなぜ、ディープテックスタートアップを支援するのか。
IT起業家と研究者起業家が金融の世界で交わり、ディープテック産業をリードしようとしている。大前 創希氏はDRONE FUND代表パートナーとして、丸 幸弘氏はリアルテックホールディングスの代表取締役として、それぞれ研究開発型のスタートアップを支援するベンチャーキャピタルのトップランナーだ。お互いのことを全く知らず、むしろ苦手な人種だったと語る両者。経験も、培ってきた人脈も違うが、生き様に共通点があった。
これからの時代、人の暮らしがどうなるのか。求められる人材はどう変わっていくのか。トップ同士の対談に迫る。
大前 創希(おおまえ そうき)さん(DRONE FUND代表パートナー)
1974年、大前研一の長男として生まれる。2002年に株式会社クリエイティブホープを創業し戦略面を重視したWEBコンサルティングを展開。2014年末より個人的なドローンの活動を開始し、ドローンムービーコンテストを受賞。2018年9月よりDRONE FUND代表パートナーに就任。ビジネス・ブレークスルー大学/大学院教授(専門はデジタルマーケティング)。
丸 幸弘(まる ゆきひろ)さん(リアルテックホールディングス代表取締役/リバネス 代表取締役 グループCEO)
2002年東京大学大学院在学中に理工系大学生・大学院生のみでリバネスを設立。日本初「最先端科学の出前実験教室」をビジネス化。大学・地域に眠る経営資源や技術を組み合わせて新たな知識を生み出す「知識製造業」を営み、「知識プラットフォーム」を通じて200以上のプロジェクトを進行させる。町工場や大手企業等と連携したスタートアップエコシステムの仕掛け人として、世界各地のディープテックを発掘し、地球規模の社会課題の解決に取り組む。株式会社ユーグレナをはじめとする多数のスタートアップ企業の立ち上げにも携わる。
新しい産業をつくるために。お互いの限界を悟り、突破した。
ーー異分野のお二人がどのようなきっかけで一緒に仕事をすることになったのでしょうか
(丸)
研究者である私から見て、誤解を恐れずに言えばドローンは“ちゃらテック”だという表現をしていたこともあります。テクノロジーで世の中に貢献するということは考えておらず、「儲かるから」という理由で興味を持つ人が増えているだけではないか、という印象を持っていたのです。共通の知人経由で千葉さん(DRONE FUND創業者)と出会った時も、紹介されてもお互いのことを全く知らず、あまりお互いに興味がなさそうなムードで始まったのを覚えています。
話を具体的に聞いてみると、千葉さんは「ドローンで農業の課題を解決したい」というお話をされていて、私も可能性を感じつつも、研究者の立場からそのハードルについて見解を話しました。すると「丸さんのお話を聞いて確信しました。ITやシステム面の整備は目処が立ちそうですが、素材もバッテリーも必要、つまりディープテックが入ってこないとドローン前提社会は来ない。だから手伝ってください」と、初対面の私に言ってくれたんです。千葉さんのようなIT業界出身の方は、意外と大企業への人的ネットワークがあまり無いんですよね。産業用ドローンを確立させようとすると、重工長大な大企業と組まなければいけません。逆に私は大企業のネットワークがとても強いので、この点もクロスしたポイントでした。その後、千葉さんを通じて大前さんとも食事をする機会があったのですが、当然大前さんのことも全然知らないわけですよ。大前研一さんの息子さんだとは想像もしませんでした(笑)。
Drone Fund千葉功太郎さんとリバネス丸幸弘さんのICCサミットでの出会い
https://industry-co-creation.com/lifestyle/45832
(大前)
顔も似てないしね(笑)。
(丸)
そんな始まりでしたが、千葉さんと大前さんが「本当にドローン前提社会をつくるにはディープテックが必要だ」と言ってくれた初めての人だったんですよ。お互いのことを知らないし調べてもない。たまたま凄い人たちだったけど、ディスカッションしたら本当に面白かった。私は「やりましょう、全部ネットワークを使うから、その代わり絶対にドローン前提社会をつくりましょうね。実現するまで絶対にやり切るんだったら僕は全英知を預けます」と伝えて、今に至ります。
(大前)
私は、空に着目したドローン産業が世の中のゲームチャンジャ―になり得る、新しい産業となる可能性がある市場だと感じていました。ただ、私も千葉もIT業界出身だからこそ、ITだけでは解決できない課題が数多くあるということをよく分かっており、丸さんと補完しあう関係を築こうと決めました。ドローンを産業に育てていこうと思ったら、自動車産業と同じくらいすそ野を広げ、様々な技術を取り込んでいく必要があります。そうなると、技術を知り、技術に出資もして、技術を持つ方々に対して「ドローン産業にあなたたちの活躍の現場がありますよ」と言わないといけないわけです。そのために丸さんと組むことが不可欠でした。産業をつくろうと思うと、スタートアップから大企業まで巻き込む必要があります。ドローンであれば、本来私たちが一番苦手なディープテックに身を置く人たちとの共創は避けて通れないのです。
(丸)
私は、IT業界の人たちをディープテックの経営メンバーとして迎え入れていく必要があると思っています。ディープテックでIPO経験がある企業は、ユーグレナやサイバーダイン、ペプチドリームなど数える程しかありません。IPOさせた人は一握りで、その人たちがノウハウを持ったまま流動が進んでいかないということが、産業の成長にあたって一つのボトルネックになっていると思っています。IT業界でIPOをした人がまた起業したり、投資家になるケースもありますが、ディープテックの会社にチャレンジすることがもっと増えてもいいのではないかと思っていたのです。
(大前)
IT業界ではシリアルアントレプレナーが生まれたりと、キャリアの循環ができてきていますよね。ディープテックのスタートアップは事業化するまで10年、20年かかることもあるので、中々2回目というのは難しいということもあります。
(丸)
IT業界で素晴らしい経験をした方が、ディープテックで20年がかりのプロジェクトにチャレンジする。あるいはIT業界で複数回IPOをさせて、最後にディープテックで本質的な社会課題に挑戦する。そういう人の流れを作れるといいのかもしれません。ガルデリア(耐酸性藻類の開発スタートアップ)の社長である谷本さんも、ITスタートアップをIPOさせた次にどうするか、考えた末にディープテックの世界に来ています。IT業界で成功した方からすると、良くも悪くも上手くいくイメージが湧いてしまう同業種の企業より、どうなるか読めないディープテックの世界こそ、興奮するのではないか。読めないけど向き合っている課題のスケールは圧倒的に大きくて、そこに魅力を感じる方はもっといるはずだと感じています。
私は、スタートアップ経営というのは大企業のインフラやアセットを使えた方がうまくいくと思っています。大学の教授や研究者のチームに、大企業経験者が参画してビジネスの仕組みを整えて売上を上げる。さらにIT業界のIPO経験者が参画することで、資金調達や組織づくりが加速する。そういったチームを増やせると、もっとディープテック産業の成長が早まるのではないかと思います。
人が目を背けることだから、真っ先に自分たちがやる。
ーーお二人が着目している社会課題について教えてください。
(丸)
私は東南アジアでのディープイシューをディープテックで解決することが世の中を良くする、とずっと発信していますが、多くの企業は東南アジアに進出しません。東南アジアは、ウイルスの発生源になることもある、台風も一番大きくて、ゴミが集まってくる地域でもある。日本から一番近い国々の一つで社会課題は多くありますが、短期的な経済合理性を考えると儲からないから誰もやらないのです。私はその状況に一石を投じたいと考えていて、先に仕組みを作り、プラットフォームを整備すれば、様々な日本の企業が集結し、金融的にもリターンが出せるはずだと考えています。
(大前)
最近アメリカで、パッケージドローンという物流ドローンに関するアンチ記事が増えてきていますが、理由は丸さんのお話に通じる部分があります。今の物流システムよりもドローンの物流コストが安くならないと、どうせ普及しないのでは?、というのがそれらの記事の論調です。でも一方で、なぜAmazonやGoogleを初めとする多くの企業がドローンビジネスに力を入れているか。それは人間が今までやりたくないような大変だったり危険だったりする仕事を 、テクノロジーで代替しよう考えているからです。人間はこれまでそのような仕事については全てテクノロジーで解決してきているんですよ。
日本で言えば山間部や離島は、既に生活インフラの維持が大変になっています。例えば、離島と本島を結ぶ船を操縦する船長が少なくなってきている。このような状況を打破するのはドローンや自動航行船などのテクノロジーしかないと考えてます。
ーー具体的にお二人が協働で支援しているスタートアップについて教えてください
(大前)
例えばメトロウェザー(大気中の微粒子から風向や風速を計測する『ドップラー・ライダー』を開発する京都大学発スタートアップ)は同時に出資をしています。古本先生(京都大学助教授/メトロウェザー代表取締役)は、京大で長年ドップラー・ライダーの特性を生かして、空気中の成分特定の方法を探求してきた方ですが、その技術の活用の仕方は見出せていませんでした。リアルテックファンドから相談を受けて、私はすぐにデューデリジェンス(投資先調査)に行きましたが、その日のうちに「ドローンになくてはならない技術だ」と確信しました。
(丸)
リアルテックファンドが技術デューデリをしていて、技術は確かでした。懸案であったドップラー・ライダーの活用方法はドローンファンドから需要を見つけられると思うという回答をもらうことができ、2人でアクセルを踏んでいきましたよね。
(大前)
ドローンが飛ぶとき一番重要になるのは気象情報で、直前30分位の段階で気象状況が分かるようになっていなければなりません。将来ドローンの飛行距離が延びたとき、飛行エリアの空間全体を把握しなければならないと考えると、絶対に必要な技術だと思いました。最初の投資のタイミングでは、まだ事業化のイメージが深まっていませんでしたが、いつか必ず求められる技術になると確信したのです。
結果的に、NASAに提案したところ高い評価を受け、これから必要になる技術だという反応をもらうことができました。もちろん大企業も開発している技術ですが、精度は圧倒的にメトロウェザーのものが優れている。サイズも小さくコストも安いというのも強みです。
リアルテックファンドとDRONE FUNDで、メトロウェザーへの支援のような事例をたくさんつくっていきたいですね。
メトロウェザー、NASAのSBIRプロジェクトをサポート
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000059540.html
(丸)
テラ・ラボも一緒にやっていますよね。
(大前)
テラ・ラボのケースはDRONE FUNDが最初に出資して、その後にリアルテックファンドが出資したケースです。テラ・ラボは、広域災害に対してドローンを提供し、発災時の支援と発災前の予防的な支援を行おうとしているチームですが、収益化していくのは本当に難しい分野なんですよね。
(丸)
もともと代表の松浦さんは、災害時の飛行機型ドローンをつくりたいという想いでスタートしていますよね。大前さんからも、ドローンをつくって販売するだけでは世の中の問題解決はできないから、販売しないモデルで課題解決をしましょうと話してました。
私はプレゼンのピッチを聞くときは、本当に何をやりたいのか、嘘をついていないかを見るようにしています。「あなたがやりたいことは、この飛行機を売ることじゃないでしょう。今、スライド閉じて本当のことを言ってください。『災害をどうにかしたい』が本心でしょう?」と投資委員会の場で指摘しました。災害大国日本の課題をテクノロジーで解決したいという熱が、松浦さんの問題意識の根底にあったのです。
(大前)
災害でお金を稼ぐことに批判もあるかもしれませんが、そもそもビジネスとして成功する形をつくること自体が難しい領域です。継続できなかったら社会課題も解決できない。だから私たちはビジネスモデルについても一緒に考えますし、起業家たちが困難に負けない確固たる決意を持つ支援をする、ということにもこだわっています。
熱海・土石流 テラ・ラボ 最新の「共通状況図」ベースマップ作成
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000022.000034117.html
「クロスアポイントメント」がキーワード。
コンフォートゾーンを抜けることで、視界はひらける。
ーー人材の流動を促進するためには何が必要なのでしょうか
(丸)
日本がイノベーションから遠ざかっている理由の一つに人材の流動化不足があると思っています。特に「クロスアポイントメント」の考え方は非常に重要です。人材の流動化というと、みんな辞めていってしまうというイメージを持つかもしれませんが、私は20社くらいの会社に携わっていますし、全て本気で取り組んでいます。もっとそういう働き方が増えてもいいのではないかと感じています。
クロスアポイントメント制度について(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/cross_appointment.html
(大前)
もっと自由に渡り歩きながら、全てにコミットしていく。お金も全ての会社からもらうという健全な形ですね。
(丸)
そのような働き方を実現するためには、「自分」という存在を確立していなければなりません。例えば、「社会貢献のためにこういうことしたい」というような意志です。自身のナレッジを増幅させるために、様々なコミュニティに所属して、全て100パーセントで立ち向かうので、副業ではなく「全て本業」という考え方です。人材の流動化は、会社を辞めることではなく、ある組織にクロスアポイントメントで関わり、また元の組織に戻るというようなことがあってもいいと思っています。
(大前)
そうやって、自分を新しい環境に置こうとすることを恐れないでほしいと思いますね。新しい知識を得て、新しい仲間を得て、それによって自分が今まで考えもしなかったようなことに気づき、新しい可能性を見い出すということができると思います。
私はIT系企業の社長として20年近く仕事をしてきて、金融、さらにはベンチャーキャピタルの経験は皆無でした。4年前に突然ベンチャーキャピタルの代表をやることになりましたが、コンフォートゾーンに留まっていたらその機会は得られませんでした。当時は、そこそこの給料があって、BBT(ビジネスブレイクスルー)大学の教授としてもお金をもらって、というような毎日だったのですから。金融という新しい場で仕事をして、資金を出すだけでなく運営することは初めてのことだったので、最初は本当に苦しかったです。この経験を通じて、コンフォートゾーンから抜けたところで「自分がどうやって社会に貢献していくのか?」を考え行動する癖をつけるということは、とても重要なことだと思いました。
(丸)
コンフォートゾーンから抜けることを意識すると世界が広がっていくのは間違いありません。外の世界を見ることを受け入れてくれやすい社会になっていて、チャレンジしていればもっと輝くところに行けるはずなので、是非チャンレンジしてほしいなと思いますね。要は、「どう生きるのか」ということがテーマだと思っています。どういう仲間と、どう関わるのか、何を仕事として選んで、何を成していくと考えるか。難しいテーマですぐに答えは出ないからこそ、多くのことを経験した方がいいと思っています。
場数を踏んで行くと、解像度が上がってくるので、本当にやりたいことが見えてくるはずですし、複数のコミュニティと関わるようになってくると、様々な物事に対して解像度の高い人たちがいるので、自分の解像度も上がっていきます。たくさんのコミュニティに関われるような人生設計をしていくということは、これからの時代、とても大事なことだと思います。
(大前)
スタートアップ界隈は、特にそういうものですよね。DRONE FUNDもコミュニティをつくっていて、あるチームに合わなかったら、他のチームに入ることもできます。大事なのは、自分が自分がコミットできると感じた事業を見つけたとしたら、そのチームに全身全力で時間を捧げるということです。それによってコミュニティの中での活躍の場が生まれて、複数のコミュニティがどんどん繋がっていくことになります。そうすると初めて自分一人では成しえないような、事業の成功や仕事の価値を見出すことができるのではないかと考えています。。自分だけの人生設計をしていると見えないものが多いので、少し幅が広いコミュニティの概念を持つと良いのではないかと思います。
採用活動をしていても、複数のコミュニティを持っている人は欲しいなと思うことが多いですね。自分がやれることをどう定義するかは自由ですが、自分がここにコミットしてやろうと思ったところを真剣にやって、その関係性を維持しながら複数の関係性を持っている人というのは魅力的です。私たちも、大企業の人たちを中心に、そういったチャンスを提供できるようにして、キャリア設計のお手伝いができればと思っています。