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【人機一体】人類が力を自在に操る世界へ最も「ロボットらしいロボット」を、つくる

人機一体(本社:滋賀県草津市)は人とロボットが相乗効果を生み出す世界を目指す。
人を完全に代替してしまうのではない。共存という言葉も正確ではない。ロボットにより人間の思考と身体能力を拡張させることがロボットの新たな可能性を生み出し、それがまた人類の可能性を拡張させるというSFのような壮大なコンセプトだ。だが、それが現実になる日も近いかもしれない。「人機」とは何か、社会にどのような恩恵をもたらすのか。同社に出資を行うリアルテックファンド・グロースマネージャの室賀氏同席のもと、創業者の金岡博士に話を伺った。

株式会社人機一体 代表取締役 社長
兼 立命館大学 総合科学技術研究機構 ロボティクス研究センター 客員教授
金岡博士(かなおかはかせ)
1971年生まれ。1995年京都大学工学部化学工学科卒業。同大学院工学研究科化学工学専攻修士課程修了、機械工学専攻博士課程認定退学。2002年から立命館大学理工学部。助手、講師を経て、2007年にマンマシンシナジーエフェクタズ株式会社設立。2015年に株式会社人機一体に商号変更、代表取締役社長就任。ロボット制御工学者、発明家、起業家、武道家。専門は、パワー増幅ロボット、マスタスレーブシステム、歩行ロボット、飛行ロボット等。ロボット研究開発の傍ら、辛口のロボット技術論を吼えることがある。マンマシンシナジーエフェクタ(人間機械相乗効果器)という概念を独自に提唱し、二十年来一貫してその実装技術を研究・蓄積。ビジネスとしての社会実装に挑戦中。

リアルテックホールディングス株式会社
グロースマネージャ
室賀 文治(むろが ふみはる)
2000年に光通信の子会社として組成した光通信キャピタルに入社し、ファンドの管理業務全般からDD、投資のクロージング、モニタリング、育成からEXITに至る投資業務全般を経験。SBIインベストメントを経て2014年にユーグレナに参画。2015年にユーグレナインベストメントを創業し、シード期の技術系ベンチャーに特化したファンド(リアルテックファンド)を組成。技術系企業の支援を強化する為に、組合員を様々な業界の事業会社として、大企業とベンチャーの共同開発といった連携が円滑に進む仕組みも導入。

先端ロボット工学技術の社会実装が進んだ先には何が待つのか

ーー人機一体が向き合う社会課題について教えてください

(金岡博士)2011年の東日本大震災が、災害復興のために人型重機をつくりたいという思いが芽生えたきっかけとなりました。ただ、東日本大震災だけがきっかけかというとそうではありません。地震災害、あるいは原発災害などの対応に特化したロボットを造るつもりは無く、もっと大きな社会課題を捉えています。つまり、人間が肉体的な苦痛を伴いながら望まざる労働に従事させられている、この状況を変えたい。ロボットを使って世界からフィジカルな苦役を無用とすることが、私たちの目標です。

そのための一番大きなストーリーラインが人型重機の開発です。ロボットが二本足で立ち、様々な作業を人と同等以上の器用さ、人をはるかに超える力で実現する。このようなロボットを2025年の大阪万博を目指して開発しています。既に上半身部分をつくり始めており、まだ試作第一号なので何度も試作を繰り返すことになると思いますが、2025年には本物をお見せできる予定です。

ーービジネスについてもう少し詳しく教えてください

(金岡博士)人型重機が注目されがちですが、本当に見てほしいのは人型重機を実現させている先端ロボット工学技術です。この技術はまだ全く社会に活用されていない、社会に活用されたら、どれほど素晴らしい社会になるのかということを知っていただきたい。

特にコアになる技術が二つあります。一つ目は、力制御・トルク制御技術。一般的なロボットは、精密に位置をコントロールすることはできますが、力を緻密にコントロールすることはできません。私たちは、それを緻密にコントロールする技術を持っています。

そしてもう一つがパワー増幅バイラテラル制御技術、人がロボットを思い通りに操ることを可能にします。工場の中など整備された環境下でのロボットであれば制御は容易ですが、いざ工場外の不確実性の高い環境に置かれると、ロボットは何もできなくなってしまいます。でも、人がロボットを思い通りに操作できるのであれば、できることは大きく広がる、それを可能にするのがこの技術です。

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人機一体の独自技術を導入したロボットは、主に以下の特徴を持つ

  1. ローレベルに力制御・トルク制御が理想的な形で実装されており、サイバーフィジカルインタフェースとして、人・ロボット・環境間の柔らかな力学的相互作用を実現することができる
  2. 力制御・トルク制御の理想的な実装により、力学ベースの汎用ロボット制御技術をいくらでも重ね合わせて同時実装することができる
  3. マンマシンシナジーエフェクタ(人間機械相乗効果器)として、力の相互作用をベースに、操作者が自在にロボットを操り、またロボットの感覚を操作者が感じることができる。

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従来のロボットが抱える問題を、人機一体の技術を使い社会実装レベルで全て解決する

  1. 自動・自律、AI ベースでは「未知環境(現場)での汎用・非定型作業」ができない
  2. 外界との接触を伴う力学的相互作用を、一般的な「固い」位置制御で実行することは難しい
  3. 物理的な「力」を自在に操ることができない
  4. 衝突・摩擦などの外部からのイレギュラーな衝撃・干渉に弱い

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ーー独自のビジネスモデルである人機プラットフォームについてお聞かせください。

(金岡博士)人機プラットフォームは、サブスクリプション型の知的財産活用サービスです。私たちの先端ロボット工学技術に関する知的財産を人機プラットフォームに提供し、従来技術では解決困難な課題を抱える企業様と連携し、課題解決に向けた枠組(プラットフォーム)を提供するビジネススタイルを標榜しています。

現在、7つのプラットフォームがあり、各プラットフォームが独自の技術に基づき、独自の市場を獲得する、これを同時並行的にやっていきます。

ーー具体的なサービス提供事例について教えてください

(金岡博士)ユーザー企業として西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)様、活用企業として日本信号株式会社様に参画いただいている「空間重作業人機社会実装プラットフォーム」の事例をご紹介します。鉄道会社では、深夜にメンテナンス作業を行っているのはご存知の方も多いと思います。電車が運行していない数時間の間に人が集まり、例えば電気設備のメンテナンスであれば、高所に登って作業をしています。重作業である上に転落のリスクもある作業です。人の安全に関わる設備のメンテナンスですから、高度なスキルが求められることは言うまでもありません。

もちろん現場では、安全に十分配慮した作業がなされていますが、リスクをゼロにできるわけではなく、どうしても効率は下がってしまいます。人材採用も容易ではなく、教育にも時間がかかる。この課題を何とかしなければ電車がいずれ走れなくなってしまうということになりますので、鉄道会社の危機感は相当なものです。そこで高所作業のロボット化が選択肢に入ってきます。作業には臨機応変な判断が求められ、自動制御では限界がある。そこで人機社の技術を活用すれば、地上にいる人が高所のロボットを思い通りに操ることによって、人が上らなくても高所作業ができます。ロボットは人よりも身体能力が高いので、作業性を上げて超力化・超人化もできるというコンセプトで、社会実装ソリューションをご提案しました。

(室賀)ユーザー企業であるJR西日本様から高評価をいただき、また、メーカーである日本信号様にもこのコンセプトの社会実装、製品化に賛同いただき、活用企業として参画いただくことになった事例です。ロボット技術を持っているのは人機社ですが、技術を日本信号様に提供し、日本信号様は自らの製造業としてのノウハウを投入して製品をつくる、それをJR西日本様に使っていただくというプラットフォームが構築できています。

(金岡博士)冒頭に申し上げた、災害復興のためだけのロボットをつくろうとしているのではないということと同じで、鉄道専用の機械だけを提供しようとは考えていません。もちろん、鉄道業界で活用いただける高機能な鉄道専用の高所作業ロボットを開発するのが我々の目標です。しかしそれだけでは終わりません。全国、全世界の鉄道メンテナンスへの横展開はもちろん、土木建築、電力、道路、トンネル、橋梁、プラントなど同じく高所作業が発生する業界・場面でも汎用的に作業できる高所作業ロボットとして、市場を開拓していくのが人機プラットフォームです。

参考記事
JR 西日本 × 日本信号 × 人機一体 による「人機プラットフォーム」を活用した「人型重機」開発プロジェクトが、ロボテス EXPO 2021 にて始動します

苦役の解消を目指した力制御の技術は、SDGsにもつながる

ーー人機一体の技術はSDGsに関するニーズにも活用できそうですね

(金岡博士)特に環境問題に対して貢献できる部分は多いと考えています。油圧機器の電動化は良い例です。油圧の重機は、エンジンを回して油圧をつくり、排気ガスを大量に排出しながら作動します。しかし、重機がないと建設作業はできないので、環境への影響とのトレードオフが悩ましい。そこで、重機の電動化による環境問題への対応というテーマが出てきます。電動化自体は多くの企業が研究を進めていますが、社会実装、産業として成立するレベルかというとまだ遠く、私たちの技術がお役に立てる可能性が高いと考えています。

最も分かりやすい、エンジンを電動モータに置き換える電動化のアプローチは導入しやすいと言われていますが、言い換えると差別化しづらい。電動モータに置き換えることで電力やCO2は削減でき、騒音も低減できますが、パワーが下がり、性能に影響を与えることもネックです。あるいは、エンジンではなく、油圧シリンダを電動シリンダに置換するというアプローチであれば、気温の影響を受けない、配管・配線を単線化できる、メンテナンス費用を削減できるなどの、さらなるメリットがあります。ただし、電動シリンダは油圧シリンダと違って外部からの衝撃に弱く、重機のような使い方をすると簡単に壊れてしまいます。つまり、衝撃があまり加わらないプレス機のような限られた用途以外での活用は難しく、重機の使用場面とは相性が悪いのです。

つまりいずれも今の技術では実用化には遠く、他の手段の検討が必要です。そこで、人機社の独自技術を投入して開発する「人機並進駆動ユニット」という電動シリンダであれば、他社にはない完全電動化を実現できると考えています。

ーー既存のアプローチとの違いは何でしょうか

(金岡博士)通常、重機の操作に習熟するには年単位のトレーニングが必要ですが、人機社のバイラテラル制御技術を使えば5分で習得できるほど直感的な操作が可能となります。さらに、人機社の力制御技術を使うことによって、例えばパワーショベルで地面を掘った時に、土が硬いか、柔らかいかを、操作者が「感じる」ことができるようになります。土を掘っていく時、何か硬いものに当たったら、すぐに分かります。電線があったら電線を壊さないように掘り出すというような作業もできるわけです。工事中に水道管を破損させてしまったというような報道を見ることがあると思いますが、私たちの技術を活用すれば、そのような事故のリスクを軽減することができます。

加えて、先ほどお伝えした耐衝撃性の課題も、私たちの力制御技術によってクリアできます。これが確立できると重機の市場は大きく広がる。同じ電動化を目指すものでも、力制御により重機をロボット化するという点で、これまでの重機メーカ各社が取り組んでこられたアプローチとは異なるものであり、社会的インパクトは非常に大きいと考えています。

ーー今後の構想を教えてください

(金岡博士)人機一体を立ち上げたのが2015年ですが、研究は2000年代初頭から進めています。20年以上続けてきた蓄積があり、その上でやっと今、スタートラインに立てたと思っています。そして、これからが正念場です。

人機プラットフォームの枠組みの中で、活用企業様が私たちの技術を活用して製品をつくってくださる事例をたくさん出していきたい。そのような地に足着いた開発を進めるのと並行して、中期的には、2025年の大阪万博で人型重機をお披露目したいと考えています。

万博会場で、巨大ロボットが何台も歩き、普通に働いていたら、そのインパクトは絶大だと思います。おもちゃではない、まるで人が動いているかのような動きをするロボットをお見せする技術が我々にはあります。もちろん、万博で見せるためだけに造る「ハリボテ」ロボットではありません。ここに使われている技術が既に多くの分野で社会実装されているという人機プラットフォームの重厚な事例とともに、「ついに本当のロボットの時代が来ました。こういうロボットを使って世界を変えましょう」というメッセージを発信していきます。

スタートアップの視点では、万博でメッセージを発信し注目を集めたところで、満を持して上場することになります。人型も役に立ちますが、人型でなくてもさまざまな分野で「苦役の解消」にロボットの技術が使える、役に立つ。本当に産業としてビジネスとして成立するんだということを、多くの人たちに知って欲しいと思っています。私たちの先端ロボット工学技術は、単に人型ロボットを造るためではなく、あらゆるロボットが役に立つ世界のためのものです。

SFの世界が現実に。ロボットが人の成長と進化を促す

ーー人とロボットの関係について金岡博士のお考えをお聞かせください

(金岡博士)人間がつくってきたあらゆる道具は、人間の能力を拡張するためにつくられてきたものですが、他の道具とは違う大きな特徴は、ロボットは「汎用」であるという点です。その意味では、コンピューターはロボットに近いところがありますね。情報処理であれば基本的には何でもできる汎用計算機です。アプリを入れれば(チューリングマシンの範囲で)何でもできるわけで、その汎用性が重要です。汎用であることの価値が、能力拡張の観点では非常に大きいと思っており、汎用計算機だけではなく汎用機械が存在することで、世界は大きく変わると思っています。

人の身体は究極の汎用デバイスです。この汎用性を維持したまま、人の身体的能力を物理的に拡張できる機械が欲しい、これが私の想いです。

現時点では、ロボットは専用機としての能力しか発揮できておらず、人の作業を置き換えることができなかったり、できたとしてもコストが高かったりします。そのため、結局人が苦役に従事している。それらの、人の身体の汎用性を利用して行っている作業を汎用性を持ったロボットが担うことがソリューションだと考えています。

楽をしたら、人は怠惰になってしまうんじゃないか、退化してしまうんじゃないかという話がありますが、私はそうは思いません。苦役を強いられない世界、人が労働をしなくていい世界で我々が目指すのは、人の身体能力拡張の追求です。

人がロボットという圧倒的な物理的能力を持つデバイスを手に入れることによって、これまで生身の身体を使ってやっていたことをロボットを通してできるようになります。人間が外部の物理的な世界に対して、働きかけできる質も量も大きく変わるわけです。ビルを建てるのに、これまで1年かかっていたものが1週間でできます、となったら世界は変わりますよね。1ヶ月で街が一気に変わる、という世界になるわけです。これは大きな社会インパクトです。

ロボットを操ることが当たり前になってくると、生身の身体よりもロボットの身体の方が高機能になっていきます。すると、眼鏡を外した時のように、ロボットから降りると不便さを感じる、ような感覚が生じるはずです。その段階まで来れば、人の能力がロボットの身体を自らの身体の一部として進化していくというような世界が来るだろうと思っています。ただし、我々はサイボーグを造りたいわけではありません。あくまで人の外部身体として人が「搭乗する」ロボットを造ります。それでもやはり、人はその外部身体を自らの身体の一部とし、進化していく。そのような、人の新たな進化を創発する世界の基盤を人機社が創ります。

ーー人機一体で働く魅力についてメッセージをお願いします

(室賀)数年前までは本当にSFの中に出てくるような会社という印象でしたが、現在、その技術とプロダクトが実際に社会実装されていく段階に入っています。ロボットの本質的な社会実装にご興味のある方は、滋賀県の「秘密基地」で実物を見て、その可能性を感じていただきたいです。

(金岡博士)立命館大学理工学部ロボティクス学科での教員時代、入学時に学生さんと話すと、みんなロボットが好きで、ガンダムがつくりたいです、と目を輝かせている。でも、卒業するときには、そういう夢を語らなくなってしまうんですよね。ほとんどの人が「現実を見て」、ロボットをつくる夢を諦めてしまう。

私たちは、子供の時の夢を諦めずに、大人の知恵を駆使して追い続けているんです。「日本人が考えるロボットらしいロボット」の社会実装に、世界で一番近づいているのが人機一体だと思います。人機社のロボットはロボット工学の教科書そのまま、そのものです。人機社は、ロボット工学の教科書の内容を、世界で一番、愚直に実装しようとしている会社です。家電メーカーや自動車メーカーも、もちろんロボットメーカーもロボットをつくっています。でも、あのとき夢見たロボットはコレジャナイ、そう思っている人に、人機社に入っていただきたいと思っています。

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