Top / Social Impact / 京大発スタートアップ・メトロウェザーが描く人事戦略。RPOの活用により、自社で取り組むべきイシューに集中する。
近年、スタートアップにおいてもRPO(採用代行/採用業務支援)を活用するケースが増えている。
「エンゲージメントを高め、多様な個が活躍できる組織づくり、カルチャー醸成を行いたい。自社で本当に取り組むべくことにリソースを割くためRPOの支援は不可欠です。」そう語るのは、メトロウェザーで人事責任者を務める鈴木氏だ。同社は風況を観測する『ドップラーライダー』を開発する従業員数約50名の京都大学発スタートアップで、創業10年となる今期から量産を見据えている。事業の転換期を迎え、人事戦略における舵取りも変化が求められるタイミングでRPOの導入を決断した。鈴木氏にRPO導入に至った背景およびその成果を聞いた。
鈴木克治さん(メトロウェザー人材開発本部長)
大学卒業後、スポーツ用品リテーラーにてキャリアをスタート。売場担当からバイヤー、販促、新規事業立ち上げなど多岐にわたる業務を経験後、スポーツ関連のサプリメントやDVD販売を手がける企業に転職。人事総務課長として、事業部制の導入等の組織設計、人事制度、研修、採用業務のマネジメントに従事したのち、マネジメント事業部長として総務・法務・人事・教育・労務の5部門を統括し、組織運営をリードする。2024年1月よりメトロウェザー社に人事マネージャーとして参画、2025年1月より人材開発本部長として採用、研修、エンゲージメント向上等の組織人材開発を推進中。
—事業の現在地と鈴木様の役割について教えてください–
当社は2015年5月に創業し、10期目を迎える研究開発型のスタートアップで、ドップラー効果という測定技術を用いた風況観測装置を提供しています。今期に入り量産を見越した試作機の1号機が完成し、今年度中に複数台の量産体制を整えていくというフェーズです。代表の古本(代表取締役:古本 淳一)とCTOの東(取締役:東 邦昭)より以前の記事で創業当初の状況もご紹介させていただきましたが(【メトロウェザー】風を制し、空の安全を守る。NASAが認めた京大師弟コンビの創業ストーリー。 – OneWork)、何度もピンチを迎えながらも、事業運営はもちろん、資金や人材等様々なご支援をいただきながらここまで辿り着いたことは大変ありがたいことだと感じています。
私のことも簡単にご紹介させていただきますと、キャリアとしてはスポーツ関連の小売り、メーカーで2社ほど人事を中心に総務、法務も含めたバックオフィスのマネジメントに携わっており、メトロウェザーには2023年10月から業務委託、2024年1月から正式に人事マネージャーとして参画しています。2025年1月に社内の体制変更があり、以前は管理本部としていわゆるバックオフィス全体の部門の中で人事マネージャーとして人事総務を担当しておりましたが、管理本部から採用、研修、エンゲージメント向上等の組織人材開発に関する役割を人材開発本部として独立させる形となり、そこの責任者として着任をしております。
—人材開発本部立上げの背景を詳しく教えていただけますか–
事業フェーズが変わり、組織の規模や働く社員のバックグラウンドも多様化する中で、採用や育成、エンゲージメント向上の施策や仕組みをつくり、多くの社員が持てる力を発揮できる環境を整えることが目的です。
OneworkさんのRPO導入後、エンジニアが約20名、管理部門と事業開発/営業等のビジネスサイド合わせて約15名の仲間を迎えることができました。米国にも拠点を出し、これからも国内外でさらに規模を拡大していきたいと考えていますが、残念ながらこれまで入社いただいた方全員が定着、活躍できたということではなく、力を発揮しきれなかったり、思い描いていたイメージと合わず退職していく社員が出ているのも事実です。様々な要因はあるのですが「スタートアップだから」「変化が大きいから」その状況があたりまえだ、仕方がないことだとは考えたくなくて、ポジティブに人の問題に向き合いたい、その結果もっと事業に貢献できるのではないかと考えています。
—ありがとうございます。今後も組織を拡大していくとのことで採用における課題感についてお聞かせください–
多くの企業で母集団形成に悩みを抱えるケースが多いと思いますが、当社の場合はエンジニアの協力のもとで、ポジションの要件定義やペルソナ設定の精度を高めることができていますので、継続的に当社に必要な経験を持った候補者の方との選考はできていると感じます。実際にOneworkさんや他のサービスベンダーさんからも、地方のスタートアップという条件を鑑みると、スカウト返信率や内定承諾率は高いと言っていただいています。
一方で職種によるばらつきはあり、例えば当社は出社前提で運営していることから、その点が応募者の方のご希望と合わず採用に苦戦しているというケースもあります。また、先ほど定着率の低さを話題に上げましたが、求職者の方が入社前に抱かれていたイメージと、実際の業務に差が生じている事態も起こっていました。もちろんギャップは起こりうるものではありますが、しっかりと双方向のコミュニケーションを取ることでその差を埋めていく、また小さくしていくことは組織拡大における本質的な課題と捉えています。せっかく古本や東、社内の技術サイドのメンバーが積極的に関与してくれていますので、一緒に働く人をどう選ぶか、そして選んでいただくか、会社のカルチャーとのミスマッチを軽減させるためにそれらのプロセスを作っていくことが重要だと考えています。
—RPOサービスにはどのような期待をいただいているのでしょうか–
私が入社する1年前からご支援いただいておりますが、当時はリソースの問題が一番大きかったと思います。人事に関しては労務担当しかいないという状況で、古本と東が採用のフロントに立って実務もこなすという状況でした。スタートアップにおいて経営層が採用にコミットすることは非常に重要である、ということは間違いありません。ただ、規模を拡大しようとすると職種が増えてそれに比例する形で業務ボリュームが増えていきます。その中には必ずしも経営層が対応するコア業務でないもの、ないしは自社で完結させる必然性が低いものもあるのです。本来事業として目指す姿があって、そのために必要な組織を設計する。既存の人員では実現が難しいから外部から経験やノウハウを持った方にお越しいただくという流れになりますが、実務に追われるとそれらが接続しきれなくなってしまったり、より良い形に向けてPDCAを回していくということができなくなります。そのために、ボードメンバーが何にコミットするのかを明確にする必要があり、RPOのお力添えは非常に大きかったと思います。また、そこから私も含めて人事のメンバーが加わり体制が整っていったとしても、当然組織が大きくなり社員数も増えてくれば人事として携わる業務も多様化していきます。つまり、リソースの問題は今後どこまでもついてくる話ですので、One Workさんと長くお付き合いさせていただき会社のことや人の状況も共有できていることで、より自社で考える必要がある人事戦略やカルチャー醸成にリソースを割けるというのが一番大きいと思っています。少し補足をすると、RPOに単なる採用の工数代替を期待しているのではなく、求める人材の要件定義をこちらでさせていただければ、意図を汲み転職市場の動向も踏まえながらスカウトのリストアップをしていただいたり、面接の日程調整についても会社の状態を把握して先回りして対応いただけており“プラスα”にあたるような、かゆいところに手が届くサポートをしていただけるのがとても助かっています。私たちが今後力を入れていく社員の定着・活性に向けた取組みにあたってもアドバイスをいただきたいと考えています。
—励みになる嬉しいお言葉です。カルチャーというキーワードも出てきましたがメトロウェザーの組織文化について教えてください–
まず組織の体制をご紹介させていただくと、現在社員数は約50名で30名弱がエンジニアという比率です。そのエンジニアをもう少し紐解くと、当社はファウンダーの2名も研究室出身でその他のメンバーのバックグラウンドも研究に寄っているのが実態です。一方でこれから量産に移行し、市場に出ていこうとしていますので、いつまでも研究が前面に出てくることはなく、製造メーカーとして、マーケットから支持されるモノづくりの立場も取り入れていかないといけないと考えています。現段階の構想としては社員に占めるエンジニア比率を大きく変えるということは想定しておらず、エンジニアが組織の中心にあるというのは、会社の特徴として変わらない、変えないものだと考えています。ただ、量産機ができるという段階において、製品やサービスを世の中にどう出していくのかという発想を強くしていかなければならないと考えているということです。
もう少し内面的な組織の特徴としては、一言で言えば真面目な方が多いです。エンジニア主体の組織であることの特徴かもしれませんが、物事を場当たり的に適当に済ませるようなことはなく、例えば何かこちらから依頼するようなことがあった場合に、しっかり準備をして丁寧に対応してくれる社員が多いと感じます。
一方で、ただ真面目で論理的なだけではなく、メトロウェザーのカルチャーには「あくなき挑戦」「徹底的にやり抜く」「個性的」といった要素も根付いていると感じています。現状の延長ではなく、ボーダー以上の挑戦が当たり前の環境であり、そこにフィットするメンバーが多いからこそ、0→1を生み出すことができる組織です。日々新たな課題に直面しながらも、それを当たり前のように乗り越える挑戦を続けていると感じています。
—それは管理部門やビジネスサイドの社員も共通しているのでしょうか–
今は営業と言っても技術営業ですので、年間販売台数や売り上げに固執することなく事業開発に近い形で、お客様の課題に対してはこんな仕様が必要になります、というやり取りが中心ですので近い雰囲気ではないかと思います。管理部門においては確動性が求められるシーンが多いので実直に仕事を進めるタイプが多いですが、成熟した組織のルーティンワークをこなすというよりも、試行錯誤しながら最適解を模索する挑戦を続けていると感じています。
—ロジカルなカルチャーとともに、変化を恐れない多様性や挑戦を大切にしている会社だと感じます–
メトロウェザーの特徴の大きなところで、事業ドメインの軸足を変える動き、いわゆるピボットを何度かしています。ドップラーシフトを使って風を観測するというコアになる部分は変わらないのですが、創業時は線状降水帯と呼ばれる大雨をもたらす雨雲を検知できないかということを考えていました。ただそれが検知できたとしても、商売になるのかという議論になって派生したのが、風力発電の風車の設置場所の選定に活用することでエネルギー問題の解決につながるのではないかという用途です。そして現在米国事業も含めて力を入れているのはドローン関連で、ドローン関連の法整備やドローンを安定運航させていく中での風況観測に当社の技術を提供できると考えています。
他にも化石燃料の消費やCO2の排出を問題視して、風の力も借りながら運航する船が世界的に研究されていますが、当社の技術によって15キロ先の風の動きを観測できれば、飛んでいる物体も検知できる、つまりセキュリティ対策として貢献できるという構想も持っています。一般的にはナショナルセキュリティ分野と分類され、社内では『ディフェンステック』と呼ぶこともありますが、コア技術は変わらずとも着眼している課題が異なれば求められる性能は変わり、顧客先も変わってきます。当社の場合は創業当初の線状降水帯はスコープアウトしていて、他の用途は濃淡をつけながら残しているというケースが多いのですが、これは弊社の特徴であると感じています。もちろん説明や日々のコミュニケーションは不可欠で、それを怠ると不協和音が生じかねないのですが、まだ当社のビジネスが確立しているフェーズではないから変化は当然ある、そこを楽しみたいよねというマインドを持てる社員が活躍していると思います。なぜこの話を持ち出したのかというと、エンジニアのメンバーが約30名いるうち、外国籍の社員が5人います。彼らは良い意味で合理的なので、会社の方向性としてこう考えていて、こんな研究を進めたいという話に対して、思考の切り替えが非常に早いのです。変化のバリエーションに富むというのは当社の特徴だと思いますので、その意味で変わることは前提と言っても過言ではない。そのマインドさえ揃っていれば、それぞれの個性を発揮できるような会社でありたいと思っています。
—多様性を生かす制度や仕組みはあるのでしょうか–
まさに理想とのギャップとして捉えており、例えばフレックス勤務やリモートワークの機会を全員に提供することはできておらず、柔軟な働き方を許容できるフェーズに至っていないのが実態です。どうしても我々の会社はハードをつくっていますので、ハードに関わる方は基本的には出社しないと仕事にならないことが多い。一方で、ソフトやデータ関連のメンバーは場所を問いません。こういったテーマを検討する際に、もちろん理由はあるのですが、なぜあの部門の人ばかり自由が認められるのかという話は必ず出てくるもので、柔軟な働き方に対応し多様性を生かす土壌を整えることは会社としては大きなテーマだと考えています。
—今後の組織づくりや採用方針について教えてください–
採用計画の実数は最終検討中となりますが、エンジニアはこれまでのペースで拡大しつつも、いかに物やサービスを世の中に出していくかという観点で営業組織の拡充が優先度の高いテーマとなっています。とはいえ技術的な知見はベースに必要ですので、技術営業の経験者の方や、少なくともメーカーや機械系の商社で営業を経験されている方の方がキャッチアップしやすいのではないかと思います。
現在50名ほどの社員数からは拡大していく方針ではありますが、ただ人員を増やすだけでなく実際に今働いている社員やこれから入ってくる方の生産性をいかに上げるかにも着眼しています。パフォーマンスの高い社員に報いる制度づくりや年間数名ずつでも新卒社員を迎えて、未経験からでも戦力化していくような育成体系も検討していきたいと考えています。新卒採用に踏みきる場合は人事が主導するだけでなく、会社全体として受け入れ体制を整備することが不可欠ですので、かなりチャレンジングな取組みになると想定しています。中途採用の場合どうしてもスキルセットがベースになってきますが、新卒になるとフラットに人柄や何年後にどうありたいかというような志向性がフィットするかという長期的な目線で考えますので、会社にとってもプラスになると考えています。
—どのようなマインドの方がメトロウェザーに合致するのでしょうか–
必須になる要素は大きく2つではないかと考えます。
1つは、先ほどお話したピボットの話に関連しますが、変化を負担に感じずにチャレンジできる人。会社の大きな方向性がある中で、ある程度の自由度を保ちながら変化を楽しんだり、自身のアイデアを形にしていく過程を見出すなど、そういう方向性であればこんな良い点もあるよな、自分としてはこんなことができそうだなと前向きに許容できないかという思考に切り替えられる人の方が活躍しやすい事業フェーズではないかと思います。
2つ目はコミュニケーションで、自分が協力を申し出たり他の人から協力を引き出すために自分から働きかけができることは大事なのではないかと思います。当社のあらゆる役割で1人で完結できる仕事はほとんどありませんので、専門範囲に集中して成果を出せばいいというような方よりも、回りにおせっかいをするような方のほうが溶け込みやすいのではないかと思います。
—最後に、RPOを活用する価値についてお考えをお聞かせください–
まず自社で考えるべきこと、必ず自分たちでリソースを割くべき優先課題に工数を割ける状況をつくるということが重要だと思います。手を動かし汗をかくということも大切ですが、そのための準備は自分たちでしかできないことが多くあります。採用を強化する際にも、どういう組織を描き、どんなビジネスの価値につなげていくのかはボードメンバーや人事が主体となって考える必要があり、RPOに協力していただくことでそこに目を向けることが可能になるのではないかと思います。
もう一つ、One Workさんに協力いただくことで採用活動の磨き込みが格段に早くなっていると感じます。当社の場合技術的に分かりやすく訴求できるものがありましたが、どのような企業でも推しポイントはあるはずで、それをどう打ち出すとどんな結果になるのか、定量実績とともに応募者の方の反応や選考途中でのコミュニケーションなどポジション別に細かく振り返ることで、自社の採用課題を特定することができます。これは客観的に複数の企業を見ていないと確信を持てないこともありますので、RPOにご協力いただく価値ではないかと思います。
【この記事取材を行った人】
RPOチーム 淺野
大学卒業後、医療系の人材紹介会社に新卒一期生として入社。求人広告営業や人材コーディネーター業務に携わり、創業期からマザーズ上場、東証一部への市場変更まで経験。12年間勤めた後、育児のため退職。
専業主婦期間を経て、スタートアップのフラットでスピード感のある雰囲気が好きなことから2021年よりOne Workに参画。RPOリクルーターとして活動中。