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【エイトノット】誰一人取り残さない。“水上のSDGs”に挑む、海洋大国日本発スタートアップ。

水上を隔てる壁。その『見えない壁』と向き合い、「自律航行技術を世界に広めることで、あらゆるヒトやモノを結びつけたいと思っている」と語るのは、株式会社エイトノット(大阪府堺市)創業者の木村裕人氏だ。同社は水上における自律航行システムを手掛け、免許が無くても好きなところに行ける世界を目指す。海洋国家である日本では、水上のインフラの整備が不可欠だ。空、陸、海中の課題を解決するプレイヤーは、徐々に成長を遂げている。最後のピースとして、その課題と向き合う木村氏と、同社を支援するDRONE FUND キャピタリストの蓬田 和平氏の対談を取材した。

木村 裕人(キムラ ユウジン)さん
1983年生まれ。カリフォルニア州立大学を卒業後、アップルジャパンを経て、2010年デアゴスティーニ・ジャパン入社。コミュニケーションロボット『ロビ』を手掛け同社の歴代ナンバーワンヒットとなる。2016年よりバルミューダにて新規事業を担当し、独立。ハードウェア領域のスタートアップ企業を中心に、マーケティング・PR戦略を手がけた。2019年に高級プレジャーボートを開発する株式会社 Marine Xを創業。カーブアウトする形で2021年3月に株式会社エイトノットを創業。

蓬田 和平(ヨモギタ カズタカ)さん
銀行、外資広告会社、リクルートなどを経て、PEファンド傘下でIoTデバイス開発のスタートアップのCOOとして経営をリードした経験を持つ。DRONE FUNDではソーシング、投資先のハンズオン、広報PRなど幅広く担当。エイトノットの設立前からサポートし、カーブアウト。

オンデマンド型水上交通を実現し、新たな経済圏を作る。
生活を守り、産業を存続させた先に見据える、海上の未来。

ーーエイトノットの創業に至るまでの経緯、解決しようとしている課題を教えてください。

(木村)
元々マリンレジャーが好きで、ダイビングやヨットを借りて楽しむこともあり、縁あって2019年に私も含めた4名でMarine X(マリンエックス/本社:大阪府大阪市)という富裕層向けのプレジャーボート、いわゆるクルーザーを扱う会社を創業しました。今もメンバー達とのやり取りもあるのですが、次第に、もっと解決したいと思う社会課題が心の内から湧き始め、カーブアウトする形で2021年3月にエイトノットを創業しました。私自身は海に出て得られる体験の素晴らしさを感じており、同じものでも、海から見ると全く違うように見える景色が好きなのですが、日本は海洋国家なのに、海と人との心理的な距離がある。多くの人が、海に出るのに大変な労力を必要とすることに、どこかでもどかしさを感じていました。「もっと手軽に水上体験を提供できないか」と考えたのがきっかけです。オンデマンド型水上交通のような形で、ボートの免許が無くても好きなところに行ける。誰もが水上を自由に移動できれば、海が親しみやすいものに変わり、海からしかアクセスできないホテルやアミューズメントも成立する。そうなると新しい経済圏ができる。その実現には自律航行が必要ではないか、と考え始めていました。

ーー壮大なテーマですね。どのように実現していくのでしょうか。

(木村)
大崎上島町(広島県)との実証実験が良い例なのですが、船が生活の足になっている地域が日本には数多くあります。一方で、船員が確保できない、人口減少などで航路の収益化が難しくなっているという理由で、維持、継続が難しくなっているというのも実情です。航路再編が進み、維持ができない。あるいは仮に維持はできたとしても便数を減らさざるを得ない状況になり、生活が不便になる、ということが実際に起きています。よく離島など現地に赴き、お話を聞かせていただくのですが、数十人の人口しかいない離島の人は、ある種諦めの境地に入っているケースもあります。
「本土の老人ホームに入るのか…」
「思い出のある場所に住み続けたいのに…」
「維持できないのであれば移住するしかない」
私はそのような状況は作りたくありません。最初は都市部から来た“変わり者”というように警戒されることもあるのですが、私自身の思いも伝えることで、共感いただけることも多くなりました。自分たちだけでなく、先の世代のことまで考え「協力するよ」と言っていただける方も多いです。私は横浜出身で、理解が及んでいない部分もあったのですが、そのような声を聞く度に、何とかしたいという思いは強くなっています。離島の水上インフラを持続可能なものにするために、自律航行は不可欠だと考えています。

ーーDRONE FUNDとしてはどのような期待があるのでしょうか。

(蓬田)
我々はドローン、エアモビリティ、陸上、水中でプロダクトやサービスを提供するスタートアップを中心に投資をしており、その文脈の中で当然の流れとして、水上モビリティ、水上ドローンに関連する企業を探し続けていました。ESG投資の流れはさらに加速する、既存の構造をダイナミックに変えていけるチェンジメーカーがまだまだ必要で、水上にも大きなマーケットができるはずだ、と考えていました。そのような時に、木村さん、横山さんとお話させて頂く機会を頂き、その時からこの二人ならとずっと思っています。
領海及び排他的経済水域の面積では世界第6位の​​海洋国家である日本において、水上の課題解決は大きなチャンスだと思っています。また海洋国家日本で開発した水上に関するソリューションはパートナーシップごとグローバルに持ってていけると思っています。我々としてもチャレンジなのですが、空のモビリティプレイヤーには数千億円の企業価値がついており、水上はまだまだ未知数なところはありますが、魅力的なマーケットだと思っています。エイトノットはその課題に向き合い、大きなマーケットを創ることができる。

世の中に価値を示したい。そのために乗り越えるべき問題は何か。

ーー自律航行の魅力は何でしょうか。

(木村)
人の介在が不要で、オペレーションを完結できる点です。安全に乗り降りして、EV船なので、ロボット掃除機のように自動で充電台に戻ります。船の事故は人為的ミスが65%程度と言われますが、大きい事故は年間2000件、小規模な事故を含めると、その数は万単位にまで膨れ上がります。車は技術向上とともに事故が減りましたが、船でも同じことを目指していきたいと考えています。また、先ほど地域の交通インフラとしての役割を紹介しましたが、もっと水上交通を便利に活用してもらえる場所は都市部にも隠れています。大阪のアミューズメントパークと水族館は、一本川を隔てており、電車で行くと30分かかります。船だと5分で、いまも渡し舟はあるのですが、回遊性が高まればエンターテイメント性にもつながると思っています。考え方自体は、既に世の中にもあって、私の地元である横浜の、シーバスという観光スポットを回れるサービスが良い例です。それぞれの観光地は駅から行くと、少し不便な場所にあるのですが、水上なら便利に行けるし水上体験という非日常を楽しめることもあって人気があります。シーバスの例からも、ビジネス的にも採算性が取れるようになれば、十分普及すると考えています。

ーービジネスモデルについて教えてください。

(木村)
最終的にはソフトの開発に注力したいと考えていますが、自律航行に適した船を配備する必要があるため、しばらくは自分たちで船も準備しています。精度はまだこれからですが、離着桟や障害物を避ける、ということはできるようになっており開発は順調です。自治体もそうですが、観光船、定期船など運航している事業者様も顧客先となります。テクノロジーに感度の高い観光事業者様に興味を持っていただいており、「是非実用化して欲しい」というメッセージもいただいています。法律や技術的に乗り越えるべき壁はあるのですが、船舶の維持費用は事業者様の経営課題にもなっており、期待の大きさを感じます。また、この社会情勢も観光のニューノーマルを考えるきっかけになったと考えています。従来のように大型船一台ではなく小型船を複数台活用し、プライベートな空間を楽しむということも一般的になるのではないかと思います。自律航行の技術が確立できれば、懸案だった船員確保の課題を解決できます。

ーー実現したい未来に向け、どのような壁に直面されているのでしょうか。

(蓬田)
壁ばかり、と言っても過言ではありません。法律で言えば、小型船に限らず船の自動化は法整備が完了しておらず、さらには小型船はプレイヤーが少ないのでまずは大型船から、という順序になります。木村さんも含めて、プロダクトをローンチしたことがあるチームである、というのは大きな強みで、実証実験をするにしても位置付けを明確にしてスムーズに進行できる良さがあるのですが、法整備の部分は丁寧に情報提供や交渉を進める必要があると考えます。スーパーシティの取り組みなど、政府としても規制緩和を促していきたいことは明らかなので、その勢いを上手に活用していきたいですね。

(木村)
私はチャンスだとも捉えています。小型船については大手のプレイヤーがいません。実証実験をやって、データを国交省に提供する。「こういう活用あるよね」ということを示していき、規制緩和に繋げていく。それを主導できる可能性があると考えています。他にも漁師さんや漁協には、その方たちの立場や想いもあり、調整が必要な部分もあるのですが、例えば漁師さんなら、漁場まで行ってからが仕事であり、船を運転することはお金にはならないんですよね。そこに当社のテクノロジーを活用いただける余地もあるのではないかと思っています。蓬田さんの仰る通り、壁ばかりで苦しい時もありますが、発想を転換することで見えてくるものも、数多くありました。

(蓬田)
この課題に、苦戦しながらも着実に前に進んでいるのは、木村さんや他の創業メンバーのマインドも大きいのではないかと思います。早いタイミングで広島県のアクセラレータープログラムに採択してもらえたのも良かったですよね。応募した段階では、まだ正式に登記までできていなかったですし、どうなるか分かりませんでしたが、「何かできるんじゃないか」という可能性を信じたから、大崎上島のプロジェクトに繋がったと思います。

ーー法制度への取り組みについて少し補足していただけないでしょうか。

(木村)
経済的に意味があること、そして公共性があるか、が非常に重要です。マーケットを作っているタイミングですが、一方でビジネスとして成立するのか、答えを準備して話す必要もあるのです。ルールをどうするか、という話から入るとそれができるかできないか、という話になってしまうので、「こんな形でビジネスになっていくから、ルールはここがポイントになりますよね」という交渉が必要です。Airbnbのケースがまさにそうですよね。この問題へのアプローチの仕方は、当社の開発の考え方にも似ていて、私たちは、世の中に出していくこと、つまりはユーザーに使っていただくことを重要視しており、それが世の中に価値を示すということだと思っています。ですので、当社のプロダクトに限らず、ビジネスとして成立すると、このような世界観になってくる。そうなると、安全・安心してユーザーが使い、ビジネスをさらに拡大させるためには、ここに注意しなくてはならないですよね。というコミュニケーションになるのです。

自分のカラー、わがままを主張してもらいたい。
そして、それでも同じ方向を向く組織であり続けたい。

ーー投資家から見た、チームの特徴について教えてください。

(蓬田)
チームはとてもユニークだと思います。木村さんはビジネスサイドの方ですが、最終プロダクトを世に出してきた実績があります。CTOの横山さんは高専ご出身ということもあり、メカ、エレキ、ソフト、パワーソースなど一気通貫で技術を掌握しており、メンバーのマネジメントにも優れいていると思っています。課題になりがちなエンジニア組織を拡大できるという強みがあると思います。最終製品のプロジェクトマネジメントをやっており、「使ってもらわないと意味がない」と考えている点も、木村さんとの相性の良さを感じます。同じく共同創業者の堂谷さんは、無茶がきく。前職のロボティクス系のスタートアップで、人事、組織作りを担当していましたが、人がいないところに借りだされるので中国で生産管理もやっていました。木村さん、横山さんが回らないときは、フォローしてくれている様子がよく伝わってきます。

ーー共同創業者の横山さん、堂谷さんの人となりについて教えてください。

(木村)
横山も堂谷も以前はロボティクス系のスタートアップで働いていました。横山は学生時代の研究テーマから、新卒で入社したスタートアップも含め一貫してロボットの開発に携わっていました。デアゴスティーニで私が『ロビ』を担当する頃から付き合いがありました。船だけでなく、F1など車や飛行機など乗り物好きで、「船をロボット化していこう」と誘い一緒に創業することになりました。堂谷は、蓬田さんも触れていらっしゃった通りとてもタフです。焦らない、というか、いつでも一定のバイオリズムで暮らして、常に重心低く構えているような感じです。本人は焦ったりしているのかもしれませんが、それを周りに感じさせないのはすごいと思います。組織作りを荒れ果てた荒野からできるようなタイプで、会社が保っているのは堂谷のおかげと言っても過言ではないかもしれません。私も含めて、3人とも性格が違うのがいいですね。同じだと、いい時はうまく進むのですが、悪いと瓦解する。少なくても常に誰かが元気なチームです。

ーー会社のカルチャーについて教えてください。

(木村)
会社全体で5人で、共同創業者の3名のほか、社員はエンジニアが2名います。カルチャーというほど醸成したものは無いのですが、刻一刻と変化する状況の中で、スピードだけは大切にしています。投資家から資金調達を行うためのピッチ資料の内容が、1週間で大きく変わる、というのを半年繰り返してきましたが、変化を恐れないことは大事にしたいと思っています。マーケットが確立していないので、「あっちにチャンスがあったら取りに行く」というのを楽しめる組織でありたいと思っています。

(蓬田)
多額の資金が必要なビジネスなので、発想が全く変えていく必要があると思っています。木村さんには最初に厳しいことをたくさん言いましたが、気になることはすぐ連絡してくれたので、短期間でここまでの状態に持ってこれたのだと思います。起業家の中には溜め込む人もいて、2-3か月も考え込む人もいますが、そうなると投資家の見方も変わり、「こうした方がいい」も変わるので、このスピード感はいいところだと思います。我々としても、分からないことに時間を使うなら注力するところに注力してほしいと思っています。木村さんは連絡がないと分かりやすく、「何か集中してるんだろうな」と思っています。

(木村)
いいことか、悪いことがあったら連絡するようにしています。できないことをすぐにできるようになるのは無理で、経験値からしかアウトプットは出ないと思っているので、社内社外問わず、近くにできる人がいるならその人頼る。というようにしています。必要なことに注力しているから、次のステップに進めている。可能性が高まっているのかもしれません。

ーーどのような人と一緒に働きたいですか。

(木村)
せっかくスタートアップで仕事をするのであれば、自分のカラー、わがままを主張してもらいたいと思っています。私は、それでも同じ方向を向く組織であり続けたいと思います。あとは、自分の専門はこれだから、これしかやらない、という人はまだ当社にはいません。組織が大きくなると統制がきかなくなるかもしれませんが、自分の守備範囲ではないことも、その時々で必要なことをやる、というスタンスは大切だと思います。
もう一つ大事だと思う点は、不安に向き合えることだと思います。どの会社、どの仕事をしていても、全く不安はありませんという人はあまりいないと思うのですが、当社の場合は日々様々なことが変わるし、極端な話、数か月後に会社がどうなっているかも分からないので、不安をコントロールできる、というマインドは重要だと思います。私は海が好きだという話をしましたが、世の中にインパクトを起こしたい、という気持ちがあれば、それは必ずしも必須ではないと思います。職種の専門分野だと、エンジニアも、ビジネスサイドも、バックオフィスも必要です。ご興味を持っていただける方は、一度お話を聞きに来ていただけると嬉しく思います。

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