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【Beyond Next Ventures】ディープテック系スタートアップ元年。今こそ、行動を起こすチャンス。

日本が誇る技術の社会実装を誰よりも願い、活動し続ける。

ビヨンドネクストベンチャーズは2014年に設立された、ディープテック系スタートアップへの投資とエコシステムづくりに取り組むベンチャーキャピタルだ。技術シーズの発掘、事業化~EXITの支援など投資家としての顔に留まらず、産業の永続的な拡大を本気で、そして純粋に考え、経営者不足という課題に対峙する。2022年、政府方針に挙げられ今こそ追い風の吹く大学発ベンチャーやディープテック領域だが、そこに至るまでは困難ばかりだった。同社で起業家の発掘・育成を統括する鷺山氏に、ディープテック系スタートアップの今までと、これからについてインタビューを行った。

鷺山 昌多(さぎやま しょうた)さん
(Beyond Next Ventures株式会社  執行役員 エコシステム部門 人材育成チーム)
インターネットサービス会社での新規事業部門、金融系人材会社での大学発ベンチャーの経営人材支援サービス立ち上げを経て2017年より現職。ヘッドハンターとしての経験を元に、次世代の経営人材の発掘、経営人材育成・マッチングプログラムを企画・運営。
CDA(Career Development Advisor)、キャリアコンサルタント(国家資格)
主な担当領域:キャリアコンサルティング、起業家育成・発掘プログラムの運営

扉は開いている。多くの人がやろうと思わない。やっていないだけ。
一歩踏み出す価値が、必ずある。

ーーディープテックスタートアップのトレンドについてご紹介いただけますか。

まず最初にお伝えしたいのは、ここから5年が大きなチャンスであるということです。

今年(2022年)3月に経団連より『スタートアップ躍進ビジョン(※1)』が打ち出され、10X10X、つまりは2027年までにスタートアップを10倍に増やし、ユニコーンも10倍に増やしていく、という提言が出されました。そして、主要部分が取り入れられる形で、6月の政府の骨太の方針が発表され、新しい資本主義に向けた改革の中で、大学研究をベースとした科学技術・イノベーションへの投資とスタートアップ推進の道筋が明確に示されています。このような国をあげた支援が行われることで、ディープテック領域に関心を持ったり、この領域への注目度の高さを感じて、関わってみたいと思う人が増えるのではないかと考えています。

※『スタートアップ躍進ビジョン』について https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/024_honbun.html

ーーありがとうございます。鷺山さん自身は10年ほど前から大学発スタートアップの支援をされていますが、どのような変化を感じていますか。

私がBeyond Next Ventures(以後BNV)に参画したのは2017年初頭のことですが、前職の人材エージェント時代の頃と比べると良い意味で隔世の感がありますね。前職では、創薬スタートアップや再生医療スタートアップを多く支援していて、彼らのプレゼン資料を見ると、「これから5年、7年かけて数千億円規模の市場が生まれてくる。今の技術では解決できないようなことができるようになる。」ということが書かれていました。本当に夢のあることで「素晴らしい!これは心躍るし、是非実現したい」と思いエージェントの立場で大学発ベンチャーの経営チーム組成を支援してきました。

一方で当時を振り返ってみると、市場全体ではまだまだ研究領域の初期スタートアップに参画される方は少なく、人材流動が硬直化していましたし、結果、スタートアップ側も優れた研究チームでありながらビジネス組織としては弱いことなどもあり、夢と現実のギャップに苦しんでスケールできなかった企業も多くありました。やはり当時はこのディープテックスタートアップがまだメインストリームではなかったと思います。現在は、国内10社しかないユニコーンの一角をディープテックスタートアップが占め、メディアに取り上げられる企業も増え、国が政策としても後押しして成長のインフラが整備されはじめています。まさにメインストリームとなりつつあり、領域への期待とチャンスが広がっているということを強く感じます。

ーー具体的にどのような変化が起きているのでしょうか。

起業という観点で言えば、一つはインパクトです。大学や研究機関の研究成果を活用してスタートアップを立ち上げることで、個人のアイディアで事業を立ち上げることでは成しえない、ユニコーンにも到達できるような大きな事業に挑戦できる可能性があります。同時に、大学研究支援は年々拡充されており、事業化や事業検証の資金があり、個人での企業とは違う支援体制が存在しています。。大学や研究機関での積み上げによる差別化された技術があり、事業化資金の活用機会まである。そこを担いで社会に出せるというチャンスがあったら、起業を考えている方にとってはとても良い話ではないでしょうか。実際、主要大学には「ギャップファンド」という仕組みがあり、「有望な技術だがサービスとして仮説検証が足らない」という研究に対して、予算をつけて検証するという仕組みがあります。つまり、技術を検証した上で、投資家からの資金調達に挑むスキームがあるのです。

ただ、チャンスという点で一番お伝えしたいのは、それらを活用したい、自分がやろうという人がまだ少ないということです。「自分は研究出身ではないから」「その大学とは関係ないから」など、多くの方が自分に関われる機会があるとは思っていません。私たちも「経営者になりませんか?」という発信をしていますし、多くの大学が好意的に経営希望者向けのシーズとの創業マッチングを始めている。実は、希望する方にはドアが開いている。これに多くの方が気づいていないという点で、チャンスなのではないかと思います。

ーー投資先でもそのようなキャリアを歩まれている方はいるのでしょうか。

当社の投資先であるリージョナルフィッシュ(リージョナルフィッシュ株式会社/本社:京都府京都市)というゲノム編集技術を活用した養殖スタートアップのCEOを務める梅川さんは、良い例だと思います。京都大学の文系卒からコンサルや投資ファンドを歩まれていましたが、梅川さん自身が、京大の研究シーズを知り、ドアを叩いて経営者として創業しました。研究に関わってきた研究者と直接知り合いだった訳ではなく、まさに自ら行動してチャンスを掴んだ方です。先日20億円規模の資金調達に成功するなど事業も順調に前に進んでいます。

違いは何かと言えば、梅川さんは行動した。それだけです。みんな知らないし、やろうと思わない。やっていないだけ。ということに過ぎないのですが、この違いが大きいのです。

ーー大学院の研究など、何かしらの専門が合致することが必須ではないのですね。

それが不可欠だと思われる方も多いと思いますし、例えば創薬のような領域では、どうしてもその分野の深い専門性が必要という場合はあります。また、研究を進めていくことも多くの場合は必要で、一般のスタートアップに比べると開発マネジメントという要素も入ることもあるでしょう。しかし、多くの場合は、BtoB、BtoCに関わらず、事業モデルを組み、収益を生み出すまでを実行しきれるかどうかです。専門的なことはアドバイザー等に頼ることもできますし、寧ろ研究がわかる以上に、組織を作り、ファイナンスや大手事業会社とのアライアンスをうまくまとめられるような素養がある方が活躍をすることも多々ありますので、大手企業出身者など非研究系の方にも可能性があります。

また、これは私の仮説ですが、5年後にはディープテック系スタートアップで経営経験や実績のある人たちが増え、いわゆるシリアルアントレプレナー(連続起業家)が経営者のポジションをどんどんと埋めていくことが起きると思います。

なので、先ほど申し上げたように、「今」がチャンスなのです。ディープテック領域が夜明けの黎明期である今は、この領域で実績を持っている方は少ないのです。つまり、経営未経験であってもチャンスがあり、もっと言えば今手を動かし、足を踏み入れることができれば、一足先に行くことができるのです。

社会に価値を届けるために。
起業家を増やす。ディープテックの経営に関わる人口を増やす。

ーーBNVとしてはどのような取組みをされているのでしょうか。

当社は2014年に設立されたVCですが、当時から研究成果を活用したディープテックスタートアップには、経営人材が足りていませんでした。この問題にどう対峙するかは、優先度の高いアジェンダでした。

そこで私たちは、「ディープテックに興味を持つ経営人材を爆発的に増やし、研究者と共に優れた研究を社会に届ける」ことを本質的なゴールに設定し、2017年から、ビジネスパーソンと研究者のマッチングと、両者が共に事業化に挑戦する機会を提供する「INNOVATION LEADERS PROGRAM」(以下ILP)を年に数回実施しています。卒業生は400人を超え、うち40名ほどがディープテック系スタートアップの創業メンバーとして起業・参画され、経営メンバーとして活躍しています。

これからも、より魅力的で有望な研究を世の中に出していきたいという想いに共感いただける未来の経営者たちを輩出するために、この活動を続けていきます。

『INNOVATION LEADERS PROGRAM』 https://ilp.beyondnextventures.com/

IL参加メンバーがディスカッションしている風景

ーーILPには2つのプログラムがあるのですね。

仰る通りです。将来的に、「経営者」を志す未来のビジネスリーダーたちに向けた「Entrepreneurs」と、大手企業内の社内イノベーターを目指す方がディープテックの1→10のフェーズを体験する「1→10 TRIAL」があります。それぞれ目的が異なっており、前者は起業家を増やす、後者はエコシステムの住人を増やすという性質をそれぞれ持っています。

ーー鷺山さんはどのようなきっかけで参画されたのですか。

まずは伊藤(伊藤 毅/BNV創業者・CEO/Managing Partner)との関係からご紹介した方がよいかもしれません。伊藤が独立前にとあるファンドに在籍していた時期から、私は人材エージェントとして付き合いがあり、ビジネスパートナーでした。伊藤は創業前からディープテック系スタートアップの経営人材について理想と危機感を持っており、Beyond Next Venturesを設立した後もキャピタリストとして活動する傍らディープテック領域の魅力を伝える説明会などを開催して未来の経営人材を呼び込む活動をしていました。しかし、やはり投資活動があり、どうしても時間を割ききれない部分がある。そんな中で「まだ研究界隈の魅力を知らない、最も優れた経営人材をこの研究界隈に呼び込んでいきたい、一緒にやろう」と誘ってもらったことがきっかけです。先ほども言いましたが、ディープテック系スタートアップのHRエコシステムは当時まだ小さく、人材流動も十分ではない。しかし次の世代を担う産業になるためにはそれではダメで、寧ろ他の領域の中でもダントツで優秀な人材を呼び込む必要がある。その難しいミッションを成し遂げて、この領域に優れた経営者を生み出すことができたら最高にエキサイティングかもしれない、そう思い入社しました。

実際、創業前後は最も中枢となる人材を採用する時期ながら、その活動には最も苦労が伴う時期です。決して多くの報酬は払えませんし、事業自体もまだ構想段階。そこに大手よりも寧ろ優れた人材に創業初期に加わって頂くのは容易ではありません。だからこそ、経営の一角を担うVC自身がその技術やチームの魅力を外に伝えていくことで、優れた経営チーム作りに貢献できる余地があると感じました。

余談にはなりますが、合理性だけ考えたら、投資実行のための経営者探索までは手掛けるとしても、1号ファンドの時点から長期目線で経営人材育成のプログラムまで手掛けようというのはクレイジーな発想だとは思います。

そこには、エコシステム全体のために経営人材のパイを増やす、やり切るとコミットした伊藤(BNV代表)のすごさではあると思います。私ではなくキャピタリストをもう1名採用して、完成度の高いスタートアップにだけ投資する方が儲かるかもしれない、でも伊藤はそれをやらなかった。人生をかけて経営者づくりに取組むという思想に強く共感しました。

私たちの未来をつくる、私たちに不可欠な仕事。

ーーまさに未来をつくる仕事ですね。

はい。そう思いますし、そう信じてこれからもやっていきたいと思っています。これまで、産業全体のトレンドや、当社の在り方をお話ししましたが、それを横に置いても、これからの社会を変えるディープテック系スタートアップに関わる事は、より個人のキャリア選択として魅力を増していくことと思います。特に、最近は必ずしも転職ではない副業やプロボノなどの手段も増えていますし、ご自身なりのリスク許容度に合わせた関わり方もいろいろ考えられるのではないでしょうか。まだ見ぬ優れた研究、そしてディープテックスタートアップを、みなさんの人生の選択肢の一つとして考えていただけたら嬉しいです。自分主体で何を残すのか。それが「経営をやってみたい」という方でも、「技術で世の中を盛り上げたい」という方でも、何かしら動機を持っている方に私たちの周囲にある優れた機会を届けたいと思っています。

ーー最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

5年後の2027年、現在10社程度のユニコーンは100社になっているかもしれません。その時、中心で輝いているのは世界の課題解決に挑めるディープテック系スタートアップである可能性は大いにあると思っています。私は当社に参画する際に「経営者を100人輩出したい」と思って参画をしてきました。入社から5年。当社投資先以外の道に進まれた方も含めてですが、約40人の方が経営者としての道を歩まれました。当初の100人という目標では、まだ道半ば。もちろん、経営者という道以外にも、社員として、または大手企業からスタートアップと連携を推進する立場として活躍する人も増えてほしいと願っています。

チャンスが溢れているディープテック業界。今回の記事をきっかけに皆さんの選択肢が広がり、行動のきっかけになるようであればとても嬉しく思います。

鷺山さんと、ILP卒業後にスタートアップ経営メンバーになったOB達、約30名との写真

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